暴飲暴食の街に敗れる「グランドハイアット香港」②

dsc『太陽(特集:香港を食べに行く)』での菊地和男さんの料理写真は蠱惑的だった。…その後、『超級食香港』『香港飲茶読本』など、菊地さんの写真・文によるガイド本も買ってしまったほど。これでもか!という程、どれも挑戦的で旨そうなのだ。そこに掲載された名店「福臨門」の荷葉飯(炊きゴミご飯の蓮の葉包み蒸し)や、白灼基圍蝦(茹で海老)に一目でくらっときた。「鏞記酒家」の皮蛋やローストグースには唾を飲み込んだ。「鹿鳴春」の北京ダックには、居ても立ってもいられなくなった。そして陸羽茶室や大會堂酒樓の飲茶が、香港に旅立つことを決めさせた。

そしてグランドハイアット香港を根城に、食べまくる4日間。茹で海老の汐の香りと旨味、タレとのバランスの良さに飛び上がり、皮蛋と生姜の組合せに驚愕し、ローストダックに付ける甘いソースを持って帰りたいと本気で悩んだ。…美味しかった。一食すら妥協することなく食べた。さらに、グランドハイアットの朝食の素晴らしさ。これには参った。フレッシュオレンジジュースの美味しさ!(ご自慢らしく、スタッフが席を廻ってお代わりをサーブしてくれる)ペストリーもかりかりと、塩卵と豚のお粥もねっとりと、メニューも豊富で、いずれもレベルが高い。これは朝から食べざるを得ない。

決して大食漢ではない二人が、朝昼晩とたっぷり美味を追及した結果、私は日本に帰った翌日からお腹を壊し、脱水症状になって点滴を打った。香港に行かんがために、出発前に仕事を詰め込み、深夜まで働いた結果もあろう。でも、私は香港の魅力に負けてしまったのだと思う。あまりの美味の誘惑に。それが重なり消化器にまで過剰な労働を強いたのだ。完敗だった。ちょっと苦しくも幸福な負け。

それ以降、何度か香港との再戦を果たした。勝ち負けを超えて「食の魔都」と付き合うことになり、今ではちょっと馴染みの街になった。逆に、初めてのこわごわの街歩きの気分は消えてしまったけれど。

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