ミューズ降臨「メディア」大竹しのぶ

picg松尾スズキの二人芝居、「蛇よ!」をかぶりつきで観た。目の前に、ステージに向かって取り付けた小さな階段があった。悪い予感は当たり、芝居の最中に大竹しのぶがその階段を降りてきて、隣りの席の妻に振った。「今日はどちらからいらしたんですか?」「うぐっ・・・」いつも冷静な妻が詰まる。「そぉ、山梨からぁ。ぶどうが美味しいわよねぇ。」・・・何も言ってないのに、アドリブで返された。

そんな訳で、という訳ではないが、「メディア」を観に行った。実に美しい舞台だった。幕が開くと、シアター・コクーンの高い天井から、ステージ上に張られた水面に薄青く咲く、無数の蓮の花の上に、細く長くスポットライトが当たっている。召使の老婆の長セリフ。水路を通ってコロスたちが現れる。長いセリフが続く。少し重かった空気が、大竹しのぶが現れた瞬間に一変する。声だけで、舞台の雰囲気を変えてしまう。空気が変わってしまうのだ。メディアの感情の動きがまっすぐに、伝わってくるのだ。なぜか、水に濡れて演技していることが、必然の風景になってくる。

それにしても、この舞台の全ては大竹しのぶの存在感だ。「NODA・MAP」などの舞台を観た時に感じたセリフの「軽やかさ」「巧さ」ではなく、力感に溢れ抑揚に充ちたセリフ。総合点でも素晴らしい舞台だった。それでも、この舞台は彼女が全てだった。最初のアンコールの挨拶で大竹しのぶが登場したときに、身震いしたぐらい。

これだから生のステージは止められない。ライブじゃないと伝わらないものが、確かにある。舞台でこそ輝く人がいる。誰かが「大竹しのぶが舞台に立つと、ミューズが降りてくるのが分かる」と言ったそうだが、まさしく「メディア」の舞台にはミューズが降臨した。

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