憧れの風景「二期倶楽部/那須」

h_041前から気になっているホテルがあった。そのホテルは那須にあり、広大な敷地と僅かな客室、美味しい料理が評判だった。紹介記事に掲載された写真が私の心に残った。正面に建つ石塀と、平屋の客室の白い瓦屋根。建物を映しだす前庭のスクェアな池。写っていない細部の美しさまでを想像させる静謐な風景。行ってみたい、その中に自分を置いてみたいと感じさせる魅力があった。ある年の8月の終わり、そのホテルを訪ねる機会がやってきた。

インターを下り高原の風景に慣れ始めた頃に脇道に入り、鄙びた農道を走る。さらに小さな路を通り敷地内に入ると、刈り揃えられたツツジの生垣が迷路のように続く。駐車場に着くと、どこからか老年のスタッフが現れ、リストから我々の名前を確認する。柔らかな地元のことばが些かの緊張を解きほぐす。本館へ向かう右手、渓谷へ下る緑溢れる斜面にコテージが連なる風景はバリのウブドゥを思い起こさせる。期待が高まる。

正面の壁を回り込むと、木製の釣橋。視線が自然と下へ。最初のサプライズ。自分が立つ場所を一階だとすると、地下二階ぐらいの場所に水を張った中庭。その水面から伸びやかに立ち上がるガラス窓が、視界いっぱいに飛び込んでくる。自然に溢れた風景の中を通ってきた後の、見事な近代的造形美との出合い。やるなぁ。

ガラス窓の内側は大きな吹き抜けを持つレストラン。綺麗に並べられたテーブルには白いクロス。絵画的な演出。そこで食事ができるのだ、ということだけで頬が緩む。同行の妻と視線が合う。満足そうな笑みを湛えた顔は、第一印象は合格、というサイン。ホテルの魅力は、空間の魅力であり、サービスであり、料理であり、それらを結びつける演出。チェックイン前のこの数分間で、その魅惑に、術中に嵌ってしまう。(続く)

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