Archive for 7 月 9th, 2005

懐かしの状況劇場「根津の甚八」

pic_初めての“芝居”体験が状況劇場の「ユニコーン物語」だった。「汚い格好してきてね」誘ってくれた友人にそう言われ、恐る恐る出かけた紅テント。渡されたビニール袋に靴を入れて抱え、シートを敷いただけの地べたに座る。舞台用の化粧を済ませた若手出演者に「はい、あと30cm前に詰めてぇ」「はい、まだ入りまぁす」とか言われながら、ぎちぎちに詰めて座るテントの中は既に異空間。唐十郎、李麗仙、小林薫、十貫寺梅軒、不破万作、主役は根津甚八。自分のセリフを噛んで笑ってしまった唐さんのつばが飛ぶ。水が飛ぶ。汗が飛ぶ。不思議な一体感が狭いテントの中に充満する。

真田十勇士の一人、根津甚八の名前から取った(であろう)彼はまもなく紅テントを去り、小林薫が彼の代わりに主役を張った。(私は輪郭のはっきりした根津の演技の方が好きだった)その後も、西新宿、花園神社と彼らの芝居を観続けた。

根津に、彼と(あるいは真田十勇士と)同じ名前の居酒屋がある。初夏の夕、地元に住む同僚をガイドにその店を訪ねた。案内がなければ迷ってしまいそうな下町の路地。赤い提灯と手書きの看板が軒先の鉢植えの緑に埋もれている。引き戸を入ると土間にカウンタ、その奥に6畳ほどの座敷。小さな小さな店。冷えたビールに背黒イワシ、サザエの壺煮などをつまむ。濃密な接客のおやじの説明付きで。

“甚八”というオリジナル焼酎を頼むと、グラスに並々と注ぐだけでなく、枡にもお代わり用を入れてくれる。初対面とは思えない親しさで、「初物あるんだけど、食べる?」…食べないとは言わせない口ぶり。出てきたのは厚岸の牡蠣の焼き物。確かに“初物”。“R”が付かない月は食べてはいけないと教わった…。が、殻の上には大ぶりの牡蠣が魅惑的な姿で横たわる。明日を考えずにかぶりつく。磯の香りが鼻に抜ける。「旨い!」おやじがしてやったりの顔をする。薄暗い照明の下、ちんまりと座った座敷での会話は弾み酒が進む。状況劇場と根津の甚八、どちらも濃厚な空間だった。

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