楽しくなけりゃ映画じゃない『運命じゃない人』

p100同じ場所で同じ時間を過ごしても、人によってその場面の意味合いが違う。人は自分の“立場”や“視点”でしかモノを見ることができない。流れていってしまった時間は遡って確かめられない。…なのに、この映画は、5人の登場人物の目で、同じ時間の同じ場面を、いくつもの別の角度から、何度も繰り返し観ることができる。タイムスパイラル・ムービー『運命じゃない人』を観た。これは日本映画として、久々に、かなり楽しい出来映え。

物語の裏を覗くことができるという野次馬的な興味を満足させるだけではなく、感情移入をした登場人物のキャラクターがひっくり返されるという意外性に、快感さえ覚えてもしまう。どこにでもありそうな日常のシーンを反対の方向から観せることで、そこに潜ませたドラマにリアリティを持たせ、エンタテインメントとして面白い作品にしている。世界で一番“人が良い”んじゃないかと思う主人公:宮田武を演じる中村靖日をはじめ、5人のキャストも良い。脚本も破綻なく軽快で小気味良い。そう、単純に観て楽しいのだ。これ大事。やるなぁ、新人監督とは言え、内田けんじ。期待しよう。2005年のカンヌ国際映画祭(批評家週間)でいくつもの賞をもらっただけのことはある。

マイナーな劇場で、若手監督の作品を観て、しまった!と思った経験がある人、騙されたと思って観て欲しい。実は、私もよく騙される。かなり後悔する。でも、この映画は、貧相な芸術性や思い入れで作られた自己満足映画とは一線を画す。お金は掛かっていない。でもそれを感じさせない。ぴあがPFFの受賞者の中から毎年企画を募り、選ばれた新人監督にスカラシップとして制作費を出して、勉強してもらいながら撮らせた作品。内田けんじはその7人目の監督。…潤沢な予算はない。しかし、きらりと光る才能の欠片が、ある。今後も、内田監督が言う、日本ならではの、日本人ならではの、良い意味の娯楽作品としての「日本映画」を楽しみにしよう。

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