リゾートには不向き?『半島を出よ』村上龍

P1020787珍しく結論から言う。お薦め。実に読み応えのある良い本だった。やはり力のある作家だなぁ、村上龍。久しぶりに発売前から気になっていた作品だった。装丁は鈴木成一デザイン室。これもチェックポイント。福岡市上空からの空撮写真にヤドクガエルの写真が生々しく貼り付く。上巻の青、下巻の赤は、村上春樹の『ノルウェーの森』の赤とグリーンの装丁に通じて、ちょっと不安。

・・・でも、それは杞憂に終わった。良かった良かった。なんせ、旅先に持って行くには、実に重いのだ。この上下巻2冊。発売後しばらくして購入し、リゾート用に本棚に保管。楽しみにしていた。なんとなく予感があった。これは外れないだろう、と。『コイン・ロッカー・ベイビーズ』を筆頭に、『トパーズ』『ワイン1杯の真実』『69』など、好きな作品が結構多い村上龍。でも、外れるときは思いっきり外れる。(ファンの方、ごめんなさい。私に合わないという意味です)途中で放り出したくなるほど。ヒットの打率は3割程度。野球の世界で言ったら立派だけど、真からの愛読者とは言えない私にとっては物足りず、とても著作全部を読む気にはならない。しかし、これはセンター方向、バックスクリーンに飛び込む大ホームラン!

P1020259今年だけで10回以上出張で往復している、馴染みのある博多の街が舞台。出張でも宿泊したことのあるシーホークも重要な場所になっている。土地勘があるのも楽しめた要素のひとつ。そして何よりも、緻密で膨大な取材の結果、リアリティある描写が隅々まで溢れていたこと。一気に読ませる巧みな構成。彼の国以外で<テポドン>と勝手に呼んでいるミサイル発射実験が失敗に終わった今年、首相のリーダーシップを改めて問われるこの国で、地方と首都圏の、持てるものと持たざるものの格差が話題になるこのタイミングで、読むに相応しい一冊。読後感も珍しく爽やか。

しかし、ちょっと重量だけでなく、テーマが重いのも事実。お気楽妻は、お気楽リゾートで読み終えるのを諦めた。しかし、100ページ弱ぐらいで断念するのはどうかなぁ?そこからだよ、あっという間に面白くなるのは。「だって登場人物多すぎ」・・・まぁ、そうだね。「なかなかストーリー進まないし」・・・最初はね、後半のスピード感は凄いよ。「人は死なないし」・・・後半になると、凄いよ。日本海を彼の国の船団が博多湾を目指すシーンなんて、想像するとドキドキするよ。「映像を想像しない本読みだからなぁ」・・・まぁ、あなたはそうだったね。「ひろべくんの『サイドウェイ』の方が、リゾート向きだよ」・・・そうは思います。とは言え、ぜひ!

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