Archive for 1 月 6th, 2008

チェーン・リーディング「荻原浩」

Photo荻原浩に嵌まっている。最初に手に取った『メリーゴーランド』も確かに読みやすかったし、2冊目の『噂』も、一緒に買った『コールドゲーム』も一気に読めた。エキセントリックにならずにきちんと現代の社会を描いている巧い人だなぁという感想は、決して間違えてはいなかったけれど、彼を語るには充分ではなかった。今思えば、彼の作風が拡がりはじめた頃の作品から手に取ったいうのが原因だった。何しろ、デビュー作『オロロ畑でつかまえて』の文庫本解説では、なんと“ユーモア作家”として紹介され、評価されているのだ。

Photo_22005年に山本周五郎賞を受賞した『明日の記憶』を初めて読んだ人からしたら、まさかぁ?と思うにに違いない。荻原浩がユーモア作家なんて・・・。しかし、そんな人でも『オロロ・・・』と続編?の『なかよし小鳩組』を読んでしまったら、そう認めざるを得ないだろう。広告代理店に勤務した経験のある作者ならではの“裏話”的な、あるある!というエピソードにくすり、ふふふと笑わせる展開から、まさかあるはずもないストーリー展開に一気に読者を巻き込み、くははっと大笑いさせられてしまう。あっという間に登場人物に感情移入してしまう。

Photo_3そしてヒチコック監督が作品にちらっと出演するかのごとく、他の作品の固有名詞をこっそり書き込む。このマニア向けとも言える構成を用意するところなどは、発見した読者が喜ぶ場面を想像し作者自身が楽しんでいるのだろうと思ってしまう。そう、楽しそうなのだ。楽しそうに書いている姿が作品の向こう側に見えるのだ。決して文章を紡ぎだすことは楽な作業ではないはずなのに、自分も楽しみ、読者も楽しませようとするエンタティナーなのだ。だからこそ読者を飽きさせることなく多様な作風、作品群で魅了することができるのだ。

Photo_4どんなに“ブンガク”でございますと声高々に宣言しても、読んでもらえない作品は悲しい。ケータイブンガクがベストセラーとなることが嘆かわしいと言う前に、なぜワカモノに受け入れられるのかを考えなければならない。泣かせだけのベストセラー現象は長くは続かない。マーケティングの理論からだけでは売れる作品は生まれない。(でも表紙を変えただけで売れた文庫がいくつもあったけれど)芸術である前に、読んでもらえる魅力が作品に、作家にあるならば小説という表現形態は消滅しない。その形が変わっていっても。きっと。

・・・ということで、荻原浩が、今おもしろい。発刊されている全ての文庫本を買い漁り読み続けている。そして作品毎に、にんまりさせられ、しんみりさせられ、わくわくさせられ、ほんのりさせられている。日本の作家は余り読まない妻も、珍しく全作品を読もうとしている。「乾いた文章じゃなきゃ嫌なんだよねぇ」・・・だったら『明日の記憶』とか『噂』は違うかもね。「じゃあ読まないでおく」・・・相変わらず妻の読書スタイルは変らない。

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