部屋とメザシと私「ザ・さかなや」

Photoの街に引っ越してきてまだ数年だというのに、ご近所の友人(妻)はその店の常連。初対面でも打ち解けることができる特技を持つ彼女。その上この店は実家と同業。商品を見る目は厳しい。そんな目利きの彼女が良いモノを売っていると太鼓判を押す店なのだから、店のおぢさんたちと仲良くならない訳がない。それに対し、家で料理をしないお気楽夫婦。この街に住んで20年以上になるのに、この店の存在は知っていたものの、余り馴染みがない。ショーケースに並ぶモノが良いのは知ってはいたけれど。その店の名前は…あ、分からない。そう言えば友人夫妻は、ただ「さかなや」と呼んでいた。※写真を改めてチェックすると、どうも「魚卯」という名前らしい。

Photo_2Photo_3の上、妻は大のパン好き。朝食は必ずパンだし、家でご飯を炊くことはほとんどない。自宅で魚を焼いて食べることなど、とても合意してもらえない。まして焼くと煙が出て匂いが残るという理由で“干物は外で食べるべし”という家訓があるぐらいだ。私もパンは好き。そして干物も大好き。たまには美味しい干物と炊きたてご飯を食べたくなったりもする。ある週末、妻は朝から休日出勤。チャンス到来とばかりにウキウキと独り「さかなや」に向かった。店頭に並ぶ美味しそうな干物。うわぁ、サバの灰干しが美味しそう!サンマの開きも魅力的。大好きな干物を食べる楽しみと、こっそりとタブーを犯す快感に胸が踊る。

Photo_4った揚句、選んだのはサバ。ふふふ、かりかりに焼いて、熱々をがしがしと食べてやる。ところが「このメザシも美味しいよ。一緒にどうだい」と店のおぢさん。勧め上手。うむむ、確かにこの銀色に輝く肌が気になっていた。しかし魚を食べるチャンスは一度だけ。メザシはいつ食べたら良いんだろう。でも、美味しそう。それもください♪結局誘惑に負け、灰干しサバとメザシをお買い上げ。その日の独りランチはサバ焼き。日干しとは違う熟成された旨味。抜群の塩加減。脂の乗った腹身の部分など、涙が出そうなほど旨い。期待通りの味に満足。あ〜っ、美味しかった。さすが“ザ・さかなや”だ。ん?ところで、この匂い。食べていた時には気が付かなかった部屋中に充満する焼き魚独特の匂い。まずいっ、妻にばれてしまう。慌てて南の島土産のお香を焚く。…気のせいかもっと複雑で酷い匂いになった気がする。

Photo_5れ?魚焼いたの」帰宅した妻が、ただいまを言う前に鋭いひとこと。あぁ、やっぱり匂うか。「匂うに決まってるじゃない」あれれ。メザシもあるんだけど。ほら、美味しそうでしょう♪「何焼いたの」サバの灰干し。さかなやで買ったんだけど、これが美味しくってね。で、勧め上手のおぢさんにメザシも買わされた。「積極的に買ったんでしょ」え、なんで知ってるの。「自分で食べなさいね」はい、もちろん。…翌日。艶やかに光るメザシの群れ。かりかりに焼いた焦げが旨そう。うん、旨い。ちょっと食べてみない?パンを食べる妻にひと口。「うぅ〜ん、確かに美味しいね。さすがに“さかなや”はどれもモノが良いよね」良かった。妻は積極的に魚が嫌いな訳ではない。部屋に付く匂いが大嫌いなだけ。

と私の食べ物の嗜好はほぼ一緒。辛いもの好きの妻に、暑がりの私が付いて行けなかったり、酒飲みの私に妻が呆れたりということを除いては。これは幸せなことだと思う。日本中の街に生鮮3品(肉・魚・野菜)の店が少なくなった現在、こんな“さかなや”が元気に営業を続ける街に住むことも、また幸せなことだ。

「しっかしまだ匂いが取れないね。やっぱり魚は外で食べよう」♫お願いがあるのよぉ♪…部屋と焼魚と私。

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