2つの世界、2つの物語『1Q84』『オキーフの恋人 オズワルドの追憶』

1Q84(1)1984年、月がひとつしかなかった世界で、私は何をしていたんだっけ。25年前、四半世紀も前。ケータイなんていうモノはなかったけれど、待ち合わせで困ったこともなかった。ちょうどレコードからCDに移行し始めた頃。大量のLPをハンターという中古レコード屋に売って、(量が多かったので家まで取りに来てくれた)CDをたっぷりと買った。その大半はLPと同じタイトルのCDアルバムだった。スポーツクラブに通い始めていた。友人たちと共有の中古のディンギー持っていた。夏に山に登り、秋にテニスをやって、冬にはスキーに行った。その頃に買ったホイチョイ・プロダクションの『見栄講座〜ミーハーのための戦略と展開〜』は、今も本棚の片隅にある。アナログからデジタルに、生真面目からお気楽に、世の中も、私も移り変わろうとしていた。

1Q84(2)1Q84年、月が2つあった世界で、私は何をしていたんだろう。ある非営利団体に所属し、陽はなかなか当たらないけれど、誰かのためなっているんだと信じて地道に仕事をしていた。決して経済的には恵まれていなかったけれど、ボランティアなどの地域活動を行いながら住んでいる街に馴染んでいった。週末には大勢の友人たちとささやかなホームパーティを楽しんでいた。その頃からの愛読書である村上春樹の『羊をめぐる冒険』は、今も繰り返し読んでいる。1984年と1Q84年から25年が経ち、2つの世界が融合し始めている。経済性を求めて働く必要はなくなったこともあり、地域に属し「街づくり」の活動を本格的に始めた。しかし根っからのミーハー精神は失せることなく、お気楽妻と共に日々ノーテンキな生活もしている。今、夜空に月はいくつ輝いているのだろう。

辻仁成ルウェーの森』以降の村上春樹は、お気楽夫婦にとっては、別れるに別れられない、愛し過ぎた恋人。かつての輝かしい日々が忘れられず、その全てを受け入れている。けれど、久しぶりに会うと失望することが多いのも事実。だから今回は期待していなかった分、読み始めてすぐにわくわくし出した。うん、この感じ。いいぞ、春樹!香港のグランドハイアットで、ペニンシュラで読み耽った。ところが気付くと、いつの間にかBOOK2の終盤。これじゃあ終わらないだろうと思ったら、やはり。欲求不満。う〜む、あと1年も待つことになるのか。やれやれ。それにしても、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』と同様に2つの物語が流れていく構成が、その2つの世界が解け合っていく不思議な空気が私の好みなのか。

オズワルドの追憶仁成の『オキーフの恋人 オズワルドの追憶』も『1Q84』と同様に2つの物語が並行しながら進行し、2つの世界が融合し、辻仁成にしては珍しくスピーディにストーリーが展開していく。当たり外れの大きいこの作家。途中で投げ出したくなる作品も多いが、これは(途中まで)息を切らさず読むことができた。残念ながら後半の破綻には溜息が出るけれど、充分満足できる面白さ。シモキタが物語の舞台ということもあり、読み終えた後に妻と一緒に下北沢の五叉路まで出かけた。ふんふん、この辺りに「バーなめくじ」があるのだな。・・・まさにミーハーである。「なかなか面白いよ。人も死ぬし♪」ミステリー系、サスペンス系作家が好きな妻もご満悦。

実の世界とは何か。空想の世界と、記憶の中の世界は、過去という時空では限りなく融合する。「言い換えれば、都合の良い記憶に摺り替えてしまうっていうことだね」それがお気楽妻の面目躍如。

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