Archive for 3 月 5th, 2011

南とは?『南へ』NODA MAP vol.16

NODA MAP16田秀樹。役者で、演出家。学生時代に立ち上げた劇団夢の遊眠社を率いて、日本演劇界に新たな風を巻き起こした。初めて野田の芝居を観たのは1987年の『明るい冒険』。もう小劇団と呼べる公演規模ではなく、会場は青山劇場。自動車メーカーまで冠スポンサーに付く人気の劇団だった。上杉祥三、羽場裕一、円城寺あやなどの人気役者も生まれ、小劇場第三世代の…などという能書きは長く書くまい。ダイナミックな脚本、複雑な物語の構成、鳥肌が立ってしまうような演出、独特のセリフとことば遊び、そして何よりも野田の存在感に惹かれ、その舞台を観続けてきた。遊眠社解散後にロンドン留学、帰国後に結成したNODA MAPは、前よりは取り易くなったものの、今もなかなかチケットが買えない人気。お気楽夫婦も毎回トライしながら実際に観に行けたのは6割程度。それでも毎回観に行こうと思わせる魅力がある。

IWGPる週末、NODA MAP 第16回公演『南へ』を観た。会場は野田が芸術監督に就任した東京芸術劇場。劇場前にはブロードウェーもかくやという出演者の巨大な顔写真がずらりと並ぶ。NODA MAPの基本はプロデュース公演。毎回、公演毎に役者を集め上演する。これまでの出演者は、堤真一、宮沢りえ、広末涼子、大竹しのぶ、松たか子などのビッグネームはもちろん、かつて遊眠社と人気を競った小劇団である第三舞台の看板役者だった筧利夫や勝村政信、自由劇場の主宰だった串田和美、解散したM.O.P.の人気女優キムラ緑子、大人計画の阿部サダヲなど、芝居好きにとっては毎回垂涎の豪華でありかつ通好みの多才で多彩なキャスティング。

NODA MAP 16 PRE回も早々にNODA MAP初出演の蒼井優と、13回公演『キル』に続いて2度目の主演である妻夫木聡という魅力の組合せを発表。渡辺いっけい、銀粉蝶、チョウソンハなどが脇を固める。舞台は富士山を思わせる火山。現代の観測所、そして江戸らしき時代。蒼井優と妻夫木聡の演技も、セリフも悪くない。2人の存在感は際立ち、いわゆる役者オーラが溢れ、キャラクターとしても魅力がある。折りたたみのパイプ椅子だけを使って、時にはテレビに、時には輿に、時には地鳴りの小道具として使う演出も秀逸。まるで歌舞伎のような小気味の良い場面転換も素晴らしい。しかし、物語は相変わらず複雑に交錯し、たたみかけるようなことば遊びが鳴りを潜めた分、観客はストーリーや物語の意味を追い過ぎてしまうことになる。意味だけを追わなくても楽しむことができる野田の世界の輝きが褪せて見えた。

Kato Kenichi 77〜ん、面白かったけど、惜しい!って感じだねぇ」観終わった後、会場からの道すがらお気楽夫婦の芝居談義。妻の意見も私と大差なさそうだ。北から来たものとか、途切れた天皇家とか、物語やことばの深さも脚本の切れ味も今ひとつ中途半端だったと伝えると、「そうなんだよねぇ。私も最初寝ちゃいそうになった」おいおいっ!「この前観たカトケンの方が安心して観られたねぇ」ウェルメイドな芝居で定評のある加藤健一事務所の公演と比較するには芝居の方向性が全く違うけれど、どちらも2人が長く観続けてきた舞台。どちらも当りもハズレもあるのは仕方ない。けれど、北を寒さ、厳しさの象徴とするならば、南とはどこなのか。暖かく、優しく、穏やかなものの象徴だとするならば、かつて渡ったロンドンのように、野田秀樹には北へ向って欲しい。野田秀樹という天才が目指す場所は、天才にとっても簡単には到達できない場所であって欲しい。その過程を観客にいつまでも観させて欲しい。

ぁ〜んか難しいこと言ってるけど、おもしろいのがイチバンってことだと思うよ」妻はいつも分かり易い。

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