先輩はバーにいる「Bar Oj’s」用賀

Dry Martiniのバーは瀬田の交差点近く、探さないと分からない場所にある。と言うよりは探し訪ねても迷うことがある。環8と玉川通りを行き交う車の騒音の中、うっかり通り過ぎてしまい、戻った場所に小さな扉を発見。確かこのドアだ。看板はない。ドアに小さな店のロゴ。インターホンを押す、のは最初の訪問だけ。2度目の訪問からは、黙ってドアを開ければ良い(らしい)。お気楽夫婦は2度目の訪問。最初の訪問は深夜、プレオープンのご案内をいただいた春のこと。ドアを開けてびっくり。カウンタだけの小さな店に、立錐の余地もなく賑わう店内。「いらっしゃい!」「どうぞぉ、じゃあ私たち代わりに帰るから」「悪いねぇ」そんな店主と先客の会話の後になんとか入店。会員制と謳っているけれど、正確には顔見知り制らしい。

Mr招待いただいたのはスカッシュレッスンの先輩。10年ほど前に、用賀のスポーツクラブでスカッシュのレッスンを受け始めた際のクラスメイト。彼は地元用賀に住み、PTA活動でレッスンも休みがちだった上に、地元の父親たちとの活動「オヤジの会」で忙しく、休会に近い状態だった。そして活動が落着いた頃にレッスンに復帰。そして「俺、今度バー始めるからさぁ。店が出来たら来てよ!」良いですよ!という本気とも冗談ともつかない会話を笑って交わしていたら、本当に店ができた。店の名前は「Oj’s」。おじ(Oj)さんたちによる、おじさんたちのためのバーだと言う。ちょっと年上の彼は「ちいママ」ならぬ、ちいマスター。知り合いの予約が入ると店に顔を出す。

Senpai!してマスターはこの方。バー経営の話が出た際には会社を辞めることを考えていなかったとのこと。けれど、思うところがあり早期退職し、毎夜バーカウンタの中に入る生活を選んだ。そしてこの夏、偶然の繋がりが発覚。マスターは同じスポーツクラブのスカッシュ仲間の女性が今も勤める会社の先輩だったことが分かった。世間は狭い。ある日の夜、W先輩を訪ねようとスカッシュ仲間4人で訪問。インタホンを押すと「いらっしゃいませ。どうぞぉ」との返事。けれど、ドアが開かない。内部から開けてもらう。やはり会員制の秘密のクラブ?「インタホン押さなくて良いよ。それにドアはただ重いだけなんだよ」おじさんのバーらしいオチ。2人のスカッシュ仲間が既に乾杯を済ませ、カウンタの端に落着いている。

Singapore Slingウンタの上にだけ落ちるダウンライトのみの照明。明るく輝くバックバーとのコントラストが良い感じ。まだまだ素人というおじさん2人だが、バーテンダーエプロンがなかなか様になっている。何を飲むかと問われ、せっかくだからとビールは止め、お願いしたドライマティーニの出来映えも美しく、期待以上(笑)に美味しい。バックバーに整然と並ぶ酒も豊富。美しい酒棚を目の端で眺めながら会話も弾む。ちんまりとした空間の居心地が良い。2杯目にお願いしたシンガポールスリングもOK。ゆっくりと酔いが回っていく心地良さを味わう。3杯目には、懐かしのソルティドッグ。スノースタイルがまだぎこちなく、均一に塩が付いていないのがご愛嬌。作ったことのないカクテルはレシピ本を見ながらという緩さが良い。そこが、この店の味。楽しみ方。だからこその会員制、というか紹介制。

しそうに仕事してますよねぇと声を掛けると。微笑む先輩お2人。仲間たちに囲まれ、楽しいお酒を飲んでもらう場所を提供したい。人生の終盤に、そんな選択をした2人。地元のネットワークを中心に、世話人役だったであろう2人の人柄が表れる空間。柔らかく包み込まれるような良い店だ。先輩たちへ声に出してエールを送る代わりに、お酒をおかわり。ボンベイ・サファイヤのロック。これならレシピ本いらず(笑)。

からと言って、今日も飲み過ぎだね」ソフトドリンクでエールを送った妻。その妻にタクシーに詰め込まれるように乗り込み、家路に付く2人だった。

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