恋せよ親父♡「父のガールフレンド」

Brothers床の父を見舞った。ほんの数年前までは風邪もひかない丈夫な身体だった。ところが3年前に胃癌で初めての入院。胃を全摘出。昨年には術後の定期検診でリンパ腫が見つかり入院。そして今回は腎機能不全での入院だった。入院中に肺炎を発症し、酸素吸入のチューブを鼻に入れながらベッドに横たわる父。手足はやせ細り、1ヶ月前に見舞った時よりも確実に衰弱していた。話すことばは明確ではあるが、ゆっくり途切れ途切れ。父の口元に耳を近づけて聞かなければ分からない。ほんの数ヶ月前までは元気に運転していたのに。去年の春には一緒に傘寿を祝ったのに。そんな記憶との落差に戸惑った。

れど、精神は以前の父のままだった。

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月前の父には葛藤があった。間もなくやってくる死の恐怖と闘う前に、現実を受け入れられない自分と闘っていた。肉体と精神のアンバランスを嘆いていた。情けない。そんなことばが深いため息と共に何度も漏れた。諦めかけてもいた。10年以上も介護し続けた妻も看取った。もう80年も生きた。そろそろ呼んでいるのかもしれない。そんなことを呟いていた。

んな父が、思いがけないことばを漏らした。「ガールフレンドができたんだ」え?冗談のようにも、妄想のようにも思えなかった。思わず聞き返した。聞けば、弟の知人女性が病床の父を見舞ってくれて、介護の仕事をしている彼女が髭まで剃ってくれたのだと嬉しそうに笑う。ベッドの傍で母と行った山行の想い出や、野草の話を聞いてくれるのだと言う。2人の出会いは、父が撮影した野草の写真展示を彼女が観たのがきっかけらしい。「俺に惚れてるんじゃないか」と、今度は冗談と分かる口調で柔らかく笑う。実に得意そうな表情で、へへっと笑う。

るじゃないか。さすが、俺の親父だ。

Willびようとしている自らの肉体を自覚しながら、その滅びに抗う精神力と、自分を保とうとする意思。延命治療は無用。母が詠った短歌を筆書した短冊の裏に、こっそりそんなことばを書き記していた。ご丁寧に落款まで押して。親父らしいよな。そうしてあげたい。兄弟3人で確認し合った。けれど、残念ながら父の身体は自身の精神について来られないらしい。どこからを延命治療と呼ぶのか。酸素吸入をしながら透析治療を続ける父。一時はもう透析を止めようかという気持にもなったらしいが、今はもう少し頑張ると宣言してくれた。そんなタイミングで新たな出会いもあった。どう生きるかは、どう死ぬかでもあるんだと、父を見て思う。

の街にサクラの咲く頃、また訪ねよう。最後まで自分であり続けようとする父を見舞い、父の恋の行方を見守って来よう。命短し、恋せよ親父♡

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