役者が揃えば『非情の人何ぞ非情に』

PARCO立と言えば、照りつけた太陽の残滓を払い去り、ざぁ〜っと降った後は涼やかな夜がやって来たものだ。ところが、最近は違う。集中的にかつ徹底的に降る。その日もいわゆるゲリラ豪雨。浅草の花火は途中で中止になり、浴衣姿のカップルはびしょ濡れになり、野外コンサートでは低体温症になった観客が救急車で搬送された…らしい。お気楽夫婦は運が良い。それも小さなところで。宝くじが当たってお金持ちになったりする訳ではなく、美味しいモノに出くわしたり、良い人と繋がったり、小さな福を満喫する。その日、ワカモノたちが渋谷の街で突然の雨に打たれていた頃、劇場に居た。

Karichirashi谷のPARCO劇場。開演前には雨は降っておらず、傘も持たずに劇場に向かった。マキノノゾミ作・演出『非情の人何ぞ非情に 〜綺譚 平賀源内と杉田玄白〜』という楽しみにしていた芝居。主役の平賀源内は佐々木蔵之介、杉田玄白役は岡本健一。佐々木蔵之介の源内が小気味良い。期待以上に良い。一幕の能天気な、二幕の苦渋に満ちた源内の演技が良い。男色家であったことを隠すこともなく(当時の文化でもあろうが)堂々と楽しむ振舞いも良い。天才ならではの底抜けに明るく、それでいて後半の暗い影を予感させる、早く産まれ過ぎた孤独な天才平賀源内が良い。

本健一が良い。彼が「男闘呼組」というジャニーズのアイドルグループに在籍していたなどということを忘れてしまう演技。最初はか弱く、頼りなく、コミカルな。そして『解体新書』を訳すという歴史に残る仕事を極めた後の堂々たる、マジメで実直な杉田玄白の演技が良い。1991年に、岡本健一とほんの少し関わりを持ったことがある。前職の仕事で、今はなきベニサンピットという劇場で彼が主役のヴァレンティンを演じた『蜘蛛女のキス』というアッカーマン演出の芝居を買い取った。会員向けの独占販売、公演が終わった後にヴーヴクリコを飲みながら、出演者たちのトークショーを楽しむ会員限定パーティというバブリーな企画。そんな企画の責任者として舞台で挨拶もしたなぁ…と、遠い目。

Chirashi井英介が良い。妻は彼のファン。花組芝居時代の芝居は観ていないけれど、「3軒茶屋婦人会」の芝居で惚れたらしい。同じく花組芝居出身の深沢敦、東京壱組の大谷亮介との3人芝居。毎回欠かさず公演に行っている。篠井は陰間茶屋の女将だったり、人気の歌舞伎女形役者だったり、そして男性役も。どれもぴったり。彼の存在が舞台を引き締め、笑いを呼び、涙を誘う。そして小柳友が良い。バブルガムブラザーズの小柳トムの息子。陰間のどうしようもない役を、ある意味見事に演じた。芸達者の奥田達士も含め、実に良い役者が揃った。

して、何よりもマキノノゾミだ。役者が活き活きと動いている。生きている。江戸の時代をリアルに悩み、苦しみ、楽しんでいる。良い脚本だ。最後はやや冗長だったものの、良い演出だ。主宰したM.O.P解散から2年余り、マキノノゾミ健在の素晴らしい舞台を楽しんだ。そして会場を出れば雨上がりの空。小福の2人だった。「え!私の出番と、オチはないの?」お気楽妻の出番は次回以降にまた。

2つのコメントがあります。

  1. Hamamatu 人


    ブログを拝見させていただいております、浜松在住の男性です。
    マキノを評価いただきありがとうございます。彼とは高校、予備校と一緒に過ごしました。スポーツ観戦が好きで演劇には興味がなく、残念ながら一度も観ていません。
    今度、是非観て見ます。

  2. IGA


    Hamamatu 人さん コメントありがとうございます。同級生マキノノゾミさんの舞台は度々観ていますが、良い舞台が多いですよ。ぜひ一度劇場に足を運んでみてください。*静岡が舞台の遠州弁での芝居「高き彼物」がおススメです。
    http://iga-iga.com/iga-iga.com/blogs/2009/12/05/1902/

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