自分たちとの夏「阿佐ヶ谷回想」

LaputaLaputa2る夏の夕、馴染みのスポーツクラブが臨時休館ということで、阿佐ヶ谷の系列クラブを訪れた。かつてその場所には「阿佐ヶ谷オデオン座」という映画館があった。1988年に閉館する直前、劇団第七病棟の『湯気の中のナウシカ』を上演。唐十郎作、緑魔子主演。かつて10代の終わりから20代前半まで住んだ街での芝居。状況劇場ファンだったこともあり観劇。劇中に出てくるサウナはバイト学生時代に私も使っていた実在の店がモデルだった。そして、かつてオデオン座のあった場所のすぐ隣に「ラピュタ阿佐ヶ谷」という名画座が1998年に開館。宮崎駿のアニメ映画から名付けた劇場と、オデオン座で上演された芝居の公演名とが共鳴し符合する。

AsagayaNightAsagayaNight2ムで走り込んだ後、夜の阿佐ヶ谷を散策。狭い階段を上った小さな店「銀杏パートⅡ」という店に、安いウィスキーをボトルキープし、夜な夜な飲んだくれていた若き日々。駅のすぐ近くにあった「ぽえむ」という喫茶店は、漫画家の永島慎二の『若者たち』『漫画家残酷物語』などの作品に度々登場した。「与っ太」という日本酒と肴が美味しい居酒屋があった。高架下の商店街「ゴールド街」には味はともかく安くてボリュームたっぷりのカレー屋などがあり、頻繁に通った。いずれの店も今はない。けれど、昔と変わらずディープな風景を歩いていると、かつての自分に出逢いそうな気配。「なんだか異国にいるようだね」夜の阿佐ヶ谷初訪問の妻のテンションが上がる。

DontsucchiDontsucchi2座の支店の方が有名になった人気の焼鳥屋は満席。店構えに美味しそうな気配が漂う小さな餃子屋にも席がない。エアコンの室外機が通りに向かって吐き出す熱気でさらに暑い路地を彷徨う。飲食店が続く道のどん詰まりに間口が2mほどの店があった。ドンツッキという2階建てのイタリアンバール。店の前のテラスまで客が溢れているものの、何とか席は空いているらしい。狭い店内は奥行きだけは20mほど。これは面白い。2階に向かう階段の手前はカウンタ席のみ。ほほぉ。2階に上ると、ほぼ全席カウンタ。ほぉほぉ。なんだか秘密基地のようでオトナの子供心が騒ぐ。

NatsuYasaiPotato供心がどんなに騒いでも、とっくに良いオトナだから酒を呑む。それがまた愉しい。長いカウンタの端に座り、壁に直に書き込まれたメニューを眺め、ビールや料理をオーダー。良心的な阿佐ヶ谷価格。予想したより多めの量、味も悪くない。「でも暑〜い」と決して暑がりではない妻が零す。エアコンは店の両端に2台設置してあるものの、階段脇の席に居たお気楽夫婦まで冷気は届かず、近くで廻っている扇風機の風が頼り。エアコンなどなかった阿佐ヶ谷のアパート暮らしを思い出す。ヤモリやガマガエルと出くわすことがある古いアパートだった。なんだか懐かしく愉しい夜だ。

19歳から26歳までの7年間、アテネフランセでフランス語を学び始め、大学に入学し、卒業し、最初の就職と結婚を経験した街。これまでの人生の中で、最も起伏に飛んだ頃に過ごした街。それらの時期により、いろいろな自分がその街に住んでいた。その夜は、かつてのいろいろな時期の自分に出会った…ような気がした。「いちばんお茶目さんだった時期だね」と妻が書きかけの画面を覗き込む。まぁ、そんな頃もあったかなぁ…。

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