サヨナラ♡中目黒「クオーレ・アズーロ」

NakameEri日あんなに濃厚な夜を過ごしたのに、ちょっと離れただけで、あっという間に冷たい関係になってしまった。別れた後の男と女の関係のようで、昨日まで住んでいた街に降り立っても、街がどうもよそよそしい。「あなた誰よ?」と街が言う。こちらはこちらで自分の街という気がしない。自分の街だったという気もしない。通勤途中で車窓から眺める街の風景は、2ヶ月前と同じように見える。よくよく見れば、あの路地を歩いたとか、あの角を曲がるとあの店があるとか、この街に住んだ2ヶ月間の光景と記憶とが目の前に広がっている、はずなのに、2ヶ月前の視線が戻って来て上書きをする。

KumiPastaで一番の女に惚れた。イタリアの女。名前は「クオーレ・アズーロ」。青き心、すなわちイタリアの心という意味だそうだ。彼女とは街を離れるちょっと前に出会った。入口には芳醇な果実の香り、奥まで入ると個性的で魅惑的な味が待っていた。初めは連れない素振りだったのに、何度かの会話を交わす内に温かさが伝わった。一目惚れ。以来、何度も通った。入口は狭く奥に深い造り。幅3mはあろうかという入口のワインセラーが自慢らしい。そのセラーの前にある小さな4人用テーブルが楽しい。奥には長いカウンタ席とオープンキッチン。さらに奥のテーブル席だけの小さな店だ。

CuoreYumiの街では飲食店が多く、中でもイタリアンは激戦。店の特色を出さなければ生き残れない。お気楽夫婦が気に入ったポイントは、料理の味はもちろん、サービススタッフやシェフと客との適度な距離感。予約の際にフルネームを尋ねられ、訝しく思ってたけれど、店に来てみて意味が分った。予約を受けてすぐに客の名前を入力しているのだ。2度目からはさり気なくトークの中に名前を挟んだり、グラスワインの種類を尋ねると「前に飲まれた白と一緒ですが」というひと言が加わったりする。友人を伴うと「ご紹介いただきありがとうございます」とさらっと、柔らかく、決してべたつく感じでもない。

LastMorningBye!つもありがとうございます。またいらしてください」中目黒での最後の夜、何度目かの訪問。別れ際のそんな挨拶に、実は2ヶ月間だけの住民だったことを告げた。「うわぁ〜っ、そうだったんですか。毎週のように来ていただいたのに、残念です」シェフにも店先まで一緒にお見送りいただいた。「でも、またすぐに来ます。毎週って訳にはいかないけど」妻が珍しくきっぱりと言った。仮の住民だった2ヶ月の間、外食した店は30店余り。2度以上訪れた店は数軒、この街を離れてからも再訪するだろうと思えた店にも何軒か出会えた。その中でも最もお気に入りとなった店がこの店だった。

れ難い良い街だったね」最後の日の朝、妻が淋しそうに呟いた。旅人のような、住民のような、どちらでもあり、どちらでもない、街との不思議な距離感を楽しんだ2ヶ月。自宅のリノベーションの完成を楽しみにしつつ、仮住まい先での暮らしを楽しむという、生涯の中でもなかなか得難く充実した期間が終わった。「さぁて、今度は生まれ変わったわが家を楽しまなきゃね♬」と妻。お気楽夫婦の快楽の素は尽きない。

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