アートか、プロダクトか?エンタメだ!『佐藤可士和展』

Kashiwa13度目の緊急事態宣言が発令され、飲食店では酒が出せなくなり、舞台や美術館は休業を「要請」されるとの報せに慌てて都心に向かった。陽気の良いこの季節に、のんびりランチを楽しもうという作戦だ。しばらく外飲みができなくなる直前の、最後の昼餐に選んだのは東京ミッドタウンの「Le Pain Cotidiene」。20年ほど前に、初めてニースで利用して気に入り、パリや代官山(閉店)の店にも伺った馴染みの店。←何様?

Kashiwa2やかな風が吹くテラス席で選んだ料理は「ローストビーフサラダ」と「スモークサーモンとアボカドのタルティーヌ」もちろん白ワイン付き。ベルギー発祥のこの店は、タルティーヌ=ベルギー式のオープンサンドウィッチがウリで、そしてとても美味しい。ちょっと酸味のあるオーガニック小麦の全粒パンとスモークサーモンとアボカドとの相性が素晴らしい。キリッと冷えたワインとよく合う。幸福で平和な時間だ。

Kashiwa3してベルギーと言えばチョコレート。「ホットチョコレート」と「ミックスベリータルト」をデザートに。ボウルに入った熱々のミルクとチョコが別々に登場し、たらりとチョコを垂らしてかき混ぜるのが楽しい♫ サクッとしたタルトの歯応えと、甘さを抑えた生クリーム、ベリーの酸味が良いバランス。苦目のホットチョコと絶妙なハーモニー。ガラス天井の天蓋付きで半屋外のキャノピースクェアでの食事は実に快適だ。

Kashiwa4足の昼餉の後は、東京新美術館で開催されている『佐藤可士和展』へ。休日に六本木まで出掛けたもうひとつの目的だ。当初の会期は5月の連休明けまで。ところが急遽決まった宣言の影響で、翌日から休館。その日が最終日となった。混雑を予想して覚悟して行ったものの、入場時間や入場者数を規制し、会場内での混乱なし。これなら宣言期間中でも開催できるのではないかというオペレーション。主催者の努力の賜物だ。

Kashiwa5場内は通常の“美術”展とは大きく異なる趣き。一部を除いて静止画(動画はNG)の撮影可。若い客それも男性が多く、“作品”の前で記念写真を撮りあっている。佐藤可士和を一躍有名にした「SMAP」のプロモーション展示が目を惹く。ポスターやパッケージデザインが並ぶ会場は、美術館であり、記念館でもある。会場の「国立新美術館」ロゴも含め、有名企業や団体のVI作品が並ぶ壁の前には「これも?」と驚く人が集まる。

Kashiwa6こにあるのは“作品”ではあるが、アートではなく、デザインでありプロダクト。けれど、単なるデザインではなく、空間や時間を創造するプロダクトであることが分かる。私が最も好きな佐藤可士和作品が、立川にある「ふじようちえん」だ。幼稚園の園舎建て替えの際に、遊びを核にして「園舎自体を巨大な遊具にする」というコンセプトで建設されたドーナッツ型の園舎。ここに通いたかった!と大人にも思わせる空間だ。

Kashiwa7ルダリングの壁面のような一角は「7−11」のセブンプレミアム商品パッケージで埋め尽くされた展示室。ひとつ一つのパッケージは見過ごしてしまっても、こんな風にトータルデザインで攻め込まれては圧が強い。セブンカフェのベンディングマシーンのデザインでは「デザインの敗北」と物議を醸したが、やはり見やすく分かり易い。ジャケ(パッケージ)買いしたくなるデザインの(敗北ではなく)勝利だろう。

Kashiwa8の展示会の協賛・協力企業には、佐藤可士和が関わった企業が並ぶ。楽天、ユニクロ、TSUTAYA、セブンイレブンなど勝ち組企業のブランドロゴだけではなく、絶対的ブランドとして確立した今治タオル、店舗変革を象徴するくら寿司、釣りのイメージから脱却したDAIWAなど、そのジャンルも幅広い。これは佐藤可士和の活動の軌跡であり、各企業のVI展示会でもある。アートではないが、展示会はエンタテインメントだ。

Kashiwa9週月曜から日経夕刊の「こころの玉手箱」に佐藤可士和が登場している。従来の会期で開催されていたならとても良いプロモーションになったはずだ。この連載を読みつつ、作品の背景、彼の世界観、空間観を味わってみよう。今週金曜日まで、全5回。すると「あ、読んでないや。読んでおいて!」とお気楽妻。そう言えば、私がかつて在籍し彼女が今も在籍する会社「ぴあ」がこの展示会の共催。やっぱりこれはエンタメだ!

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