再読のススメ『赤頭巾ちゃん気をつけて』庄司薫

akazukinった本が捨てられない。正確には、自分で買った本を処分できない。もっと正確に言えば、手に入れて気に入って読んだ本を手放すことができない。「本棚に入らないから捨てようよ!」といつもブツブツ言う妻に明確に答えられない、その捨てられない理由は何だろう。再度読み返そうと思った時にすぐに手に取れるということもある。読んだ時のことを背表紙を眺めながら思い出すのが好きということもある。老後にゆったりと読み返したいと思っているから、というのは言い訳に違いない。今も新刊が増え、全部を読み返すにはずいぶんと長生きをしなければならないだろうし。けれども稀なケースとして、実際に読み直してまた楽しむことがある。そして読み返してもなお色褪せないどころか、今でも輝き続けている、あるいは新たな輝きを持つ物語がある。私にとっては『赤頭巾ちゃん気をつけて』が、まさしくそんな作品だ。

者は庄司薫。主人公の名前も同じ「庄司薫」という18歳の高校3年生。『赤頭巾ちゃん〜』に続く『さよなら怪傑黒頭巾』『白鳥の歌なんか聞こえない』『ぼくの大好きな青髯』を合わせた4連作の第1作め。それぞれの作品に冠された4色は、古代中国の五行思想における赤(朱雀)、黒(玄武)、白(白虎)、青(青龍)。それぞれ南北西東、人生の夏冬秋春を意味する物語。作者によれば「みんなを幸福にするためにはどうすればいいか」という問いを抱えて、世界の四方に出かけて、何かを予感して封印する輪廻転生の物語。高校時代に初めて読んだこの4冊は私にとって憧れの世界だった。友人たちとの会話、主人公の語り口、軽やかでオシャレでちょっとキザなレトリック。柔らかでしなやかな知性に溢れ、それでいて若さのまっただ中でもがく、ナイーブな高校生。男の子、いかに生きるべきかなどと呟きながら。本棚の隅に妻の追求から逃れるように『赤頭巾ちゃん〜』たちが収まっている。その奥付によると初版は昭和44年8月10日、私の持っているのが昭和48年11月10日の、なんと47版!そう、当時の表現で言えば、猛烈に(笑)売れていた小説なのだ。

kiwotuketeして、2012年。4部作が改めて文庫化される。3月から毎月1冊づつ、「新潮文庫」から出版されるという。福田彰二という本名で受賞した『喪失』が中央公論新人賞を受賞したことから、今までは文庫も含めた全ての庄司薫の著作のほとんどは中央公論社が版元だった。どんな経緯があったかは知らないけれど、3月に出たばかりの『赤頭巾ちゃん気をつけて』新潮文庫版を手に取った。巻末には「あわや半世紀のあとがき」というわずか2Pだけの文章。どうやら庄司薫本人が書いた(当然だけれど)ようだ。そのあとがきを読むために迷わず購入。何しろ、4つの物語を書き終えた後、本人が言うところの「総退却」してしまった作者はほとんど表舞台に出てこない。新たな文章にお目にかかれない。ちなみに、奥さまでピアニストの中村紘子さんの収入で暮している訳ではなく、不動産等の資産運用で悠々自適の、まさしく憧れの生活をなさっているようだ。

して再読。舞台は1969年の東京。春。主人公の薫は、学校群制度が導入される直前の、東大に毎年200名近く入学していた日比谷高校の3年生。東大入試が中止となり、大学に行くことを止めることを幼なじみの由美ちゃんに伝えようとした朝から、ふんだりけったりの展開の後、銀座の旭屋書店の前でカナリア色のコートを着た小さな女の子に爪を剥がしたての足を思いっきり踏まれ、そして彼女が買おうと慌てていた『赤ずきんちゃん』を一緒に選んであげる。そして、それまでの自分の抱えたトゲトゲを全て許せる気持になって、その日の夜に由美ちゃんと仲直り、というそれだけの、たった半日の物語。けれど、半世紀近く経った今でも、その文章は変わらず瑞々しく、物語は古びることなく、若くはなくなった私に柔らかく響いて来る。書出しの文章をほぼ覚えていることに驚く。それどころか、読み返して、当時は理解できなかった小さなエピソードに気付く。物語の輪郭や陰影がはっきりとする。当時は未知の街だった舞台、東京を辿ることができる。新たな楽しみ方を発見する。40年以上前に読んだ時と変わったのは自分だけなんだと気付く。

うまで言うなら、読んでみるかぁ」と、庄司薫作品は未読の妻。未読の方にもおススメしたい。まして村上春樹がお好きなら。なぜなら、村上春樹が80年代に新たな日本の小説の地平を拓いたように、70年代は庄司薫だったんだ。…と庄司薫風におススメしてみようと思った訳だ。再読の方も、ぜひ。

美味しい!の共有「ホワイトデー」

Cheese Fondu近所に住む友人夫妻がいる。今は一緒にスカッシュをやることは少なくなったけれど、15年来のスカッシュ仲間。以前は2駅程離れた街に住んでいた彼らがこの街に引っ越して来たのは数年前。人生最大の買物である住まいをこの街に選んでくれたのは、お気楽夫婦の住む街であることも理由のひとつだという。とても嬉しく、ありがたい。以来、長期の旅行や入院の際にサポートしあったり、一緒に食事をしたり、お裾分けをしあったり、地元情報を交換しあったり。お互いに子供がいない夫婦同士、彼らが近くに住んでいることはとても心強い。

Hasegawaる週末、そんな彼らとウチメシ。それもお気楽夫婦宅にて。料理上手の友人(妻)に招かれ、手料理をいただくことは多いけれど、逆はめったにない。とは言え、メインのメニューはチーズフォンデュ。鍋は2人だけより楽しいし、お手軽である。他にもオイルサーディンのサラダ(盛付けるだけ)、パテ(やっぱり盛付けだけ)、チーズやピクルスももちろん切って並べるだけ。料理とも言えないメニュー。それでもお酒を飲めない彼らと一緒に食事をするのは、互いの自宅がのんびり気軽で楽しい。デザートまで用意してあるから手ぶらでおいで!とお誘いした。

Roll Cakeの日のデザートはご近所の名店「Le Petit Poisson」のロールケーキ。クリームたっぷりのゼータクな1本。食べたかったのだけれど、2人で食べるには大き過ぎる。でも食べたい!ということで、友人夫妻を招いてのケーキカット。「ふんわり凄い」「上品で、ホントにゼータクなクリームだよね」「やっぱりこの店のケーキは美味しいよねぇ」ご近所に美味しい店があること、その美味しさを一緒に共有できる楽しさも一緒に味わう。私を除く3人が酒を呑まない分、ティータイムは長い。自分の仕事のこと、両親のこと、体調のこと、凹まないお腹回りのこと(男性2人限定の悩み)など、いろいろな話題と共にゆったりとした時間が流れて行く。

Le Petit Poissonワイトデーのクッキー、ダブっちゃったね」お互いにヴァレンタインのお返しに用意したのはPetit Poissonのクッキー。申し訳なさそうに友人(妻)は言うけれど、いえいえ逆に嬉しいよ。自分で食べて美味しいモノを、贈る相手に食べて欲しくて選ぶのがプレゼント。それが重なったのは嬉しいことだ。それに、ホントに自分で食べたかったからね。友人夫妻が帰ってから、いただいたクッキーをひと口。ん、美味しい。自分で買って食べるより、贈ってもらったモノを食べる方が美味しい。贈っていただいた相手の時間や気持が一緒に詰まっているからなのか。互いの美味しいよね!の気持をもうひと口。やっぱり旨い♫

っちでも美味しいよ」と妻。ん、そりゃあそうなんだけどね。

そしてパーティは続く「ドンチッチョ」

Tuna約が取れないイタリアンレストランがある。正確にはシチリア料理のトラットリア。店の名前は「トラットリア シチリアーナ ドンチッチョ」。渋谷2丁目、渋谷や表参道のどちらの駅からも遠い不便な場所。数年前に勤めていた会社のオフィスがすぐ近くにあったこともあり、当時から店の存在がとても気になっていた。飲食店には鼻が利く戌年生まれの私。その私の嗅覚が「この店はなかなかですぜ」とずっと訴えていた。確かに店からは旨いぞオーラが溢れている。ところが、ランチは営業しておらず、夜にふらっと訪ねても満席で入れない。聞けば、2週間前から電話で予約を受け付けているらしいが、12時からの受付開始後すぐに席が埋まってしまう人気店らしい。う〜む。そんな時間に根性入れて電話などできんぞ。店の前を通る度に、賑わう店内を横目に見ながら訪問のチャンスを伺っていた。

Torippa…それから3年余り、ようやくチャンスが巡って来た。ある日、スカッシュ仲間との飲み会で、何かのきっかけでドンチッチョの話題になる。「えっ!私も行きたい」「美味しそうですねぇ」「知ってる知ってる!ドンチッチョ、すっごい美味しいよね!良いねぇ、皆で行こうっ行こう!じゃあ私が予約するよ!」スカッシュ仲間の奥様が告げた神のごとき声。娘のお受験も無事に終わり、夜遊びモード全開の彼女。今までに何度か訪問したことがあるらしい。よしっ!任せた。すると数日後、彼女からメールが届いた。「無事に任務完了!予約できたよぉ〜♫」了解、グッジョブ!さぁ〜っみんな、ドンチッチョ行くよ!参加を表明した全メンバーに指令のメールを送った。

Vineして、ある週末、7人のスカッシュ仲間で店に向かった。小ぢんまりとした店内に入ると、早い時間にも関わらず、ほぼ満席。カウンタ席も幸せそうなカップルで埋まっている。店内はオーダーのイタリア語が飛び交い、忙しそうにスタッフが席と厨房を行き来している。ざわざわとした賑わい。席に着いてしばらくすると、担当のスタッフが良く通る声でメニューの説明を始める。店との距離感がつかめない。アンティパスティにカジキマグロの薫製カルパッチョ、仔牛のトリッパ、仔牛のアキレス腱とレンズ豆のオーブン焼きをオーダー。「煮込みがダブりますが、よろしいですか」はい、おっしゃる通りですが、メンバーがどうしても食べたいと言ってまして。実際、大人数のオーダーは調整が難しい。以降はスタッフのアドバイスに従い、パスタ2種、メインを2種をオーダー。が、スタッフの物言いに粗さを感じ不安になる。

Fritれども、その心配は料理が登場するまで。おぉ〜、マグロ、オレンジ、ルコラが爽やかで絶妙なチームワークを組んでいる。う、旨いっ!接客の粗さは許す。シチリア産の白ワインも良い感じに合うねぇ♫地の料理は地のワインで。ダブルでオーダーした煮込み料理。濃厚なのにしつこくないってどういうことだ。うわ〜っ!これは参った。どちらもワインがすすむぞっ!赤ワインだね、これは。赤のボトルを追加。おぉ〜っ、それぞれの食材がきちんと役割を果たし、タッグを組んで舌を攻めて来る。良しっ、受けて立とう。はいっ!早くも降参しました。勝ち負けじゃないけど。美味しいです。楽しいです。幸せです。おススメの赤ワインを追加。店のスタッフとのコミュニケーションもスムースになってきた。メンバーの誰もが満面の笑み。

DonChiccho2種のパスタも絶妙なバランス。フリットもかりっと絶品。花巻 白金豚の炭火焼きの香草風味をう〜んまいっ!と唸りながら食べ終わる頃には、同じメンバーで再訪を約束。「みんなでイタリアに行きたいねぇ〜」「大勢で行くと楽しいだろうね」「行こういこう!」「シチリアで待ち合わせ!ところで、シチリアってどこ?」…すっかり酔いも回り、楽しさに弾みがついてきた。店にもすっかり馴染んだ模様。「みんなイタリア語しゃべれるの」「料理の名前とオーダーの時だけなんです」ちょいとイケメンのスタッフにメンバーがからむ。スタッフの笑顔も柔らかくなり、一緒に写真に収まる。メンバーの満足度が写真に焼き付いた1枚になった。リラックスして楽しめる良い店だ。楽しく食べ、飲める良い仲間だ。

ぇ、次の店に行こうよぉ〜」予約を取ってくれたスカッシュ仲間の奥さまが笑顔のままで声を上げる。その夜、娘を友人宅に宿泊させ、万全の体勢で迎えた彼女。パーティーはまだ終わらない。

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SINCE 1.May 2005