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このホテルへのチェック・インは、夜をお薦めする。我々も、事前に何度も何度も、写真を眺めていた。だから、この二頭の木馬も、映像として、情報として知ってはいた。なのに、改めて恋に落ちた。エントランス・ロビーを通り過ぎて、バーに向かう途中に蓮池がある。その池に浮かぶ2頭の姿を前に、心が浮き立たない人がいるだろうか。これからのヴァカンスの日々を期待させる、素晴らしい演出だ。チェック・インの手続きをするバーのソファから、エントランスを振り返る。輝く木馬、照明で作り物のように鮮やかに輝く植物が目に入る。ミントの香りがするウェット・タオル(おしぼり)が出される。ふ~っ。昨日までの些事は全て忘れてしまう。チェック・インの後、カートに乗ってヴィラへ。小さなエントランスから、ドアを開けるとすぐにベッドルーム&リビングルーム。ダウンライトをふんだんに使った落ち着いた照明の演出が旅心をくすぐる。高い天井。シーリングファンがのんびり回る。リゾート生活の基本は“読書”と“ビール”(シャンパンに置き換えても可)。本を読む居心地が良い場所があることが、良いリゾートの条件となる。このヴィラは第一印象で合格。実際、ダブルベッドほどの大きさがあるこのカウチは、実に読書をする絶好のスペースだった。リビングルームから大きな扉の向こうに続くバスルームを望む。大型の液晶テレビもこぢんまりとした大きさに見える。ともかく、ゆったり。それにしても、このバスルームの広さと言ったら・・・。背中合わせに二つの洗面ボウルが置かれている。背中合わせと言っても、その距離は2m以上。部屋の中央には湯上りに“ひと休み”できる布張りのベンチが置いてある。天井も高く、やはりシーリングファンがのんびり回っている。大きな窓の下に、大きなバスタブ。なのに広いバスルームは、ちょっとしたリビングルームほどの大きさだから、部屋の隅にちょこんと置かれている風情。夜はダウンライトの下のんびりと、朝は日の光の下でさっぱりと、何度もバスタイムを楽しんだ。ホテルのインテリアは、マレーシア風+タイ風のエイジアン・テーストで、まったり落ち着く上に、細部のデザインはきりっと洗練されている。バスタブの水栓も、おしゃれ。だけど、“HOT”“COLD”の表示もなく、左右のひねりもわかりにくく、実に使いにくい。少なくともユニバーサル・デザインではない。チェック・インの際にバーから見下ろした「ダイニングルーム」をプールサイドから眺める。光の演出が実に素晴らしい。まだ一杯も飲んでいないのに、この風景に、もう酔わされている。一夜明けて、翌日の朝。前夜と同じ風景、なのに全く違うホテルの顔が現れる。夜の演出の種明かしをされた気分。(前夜に初めて出会った美しい女性が、翌朝目覚めたらベッドの隣に“すっぴん”で横たわっていたように・・・あぁ、あくまでも“例え”として、です)なのに、“甘い夢の魔術”は解けない。それどころか、もっと惚れ込んでしまうことに。朝食にシャンパンを飲んで許される場所。それが、ダタイ。 (私の場合は、妻から許されるという意味だが) フレッシュ・オレンジ・ジュースを自分で軽くスクィーズして「ミモザ」を作る。 そんな風に、至福の朝食が始まる。色とりどりのピッチャーの中身は、フレッシュ・ジュース。 決して多くない部屋数だから、朝食のビュフェをメニュー豊富に提供するためには、 このように小さな容量でサーブする必要がある。新鮮で美味しく、美しい。パンの種類も豊富。日替わり。長期滞在にも飽きさせない工夫。 パン好きの妻は、目を輝かせながら毎朝違う種類のパンを選んでいた。南の島の朝食の魅力のひとつは、フルーツの瑞々しさ。 フレッシュな何種類ものフルーツは、目も楽しませる。クラッカーと、ブドウと、スモークサーモン、ブルーチーズと・・・。 もう、これは朝から幸福な幸福な時間。 “アル中”ということばが頭をよぎり、躊躇したことも事実。 美味いものとは、好きなものとは、正面から堂々とぶつかるべし。 それが人生訓。・・・たいした人生じゃないなぁ。妻の好物のひとつ。ワッフルを目の前で焼かれると、立ち止まってしまう性癖を持つ。 そしてワッフルの上に何をかけようかと毎回しばし悩み、 ハニー、メープル・シロップ、アップル・ジャムと数種類をすこしづつ皿に載せる。 大いに食欲はあるが、小さな胃袋しか持たないことを悔やむ時間らしい。エアコンの利いた大きなガラス窓がある明るい室内での食事も良いが、 爽やかな風が流れるプールサイドのテーブルで食事をしたいと思っても、 食べはじめると汗が流れる出す「Mr.新陳代謝」の私にはとても無理。フロントの前にある大きな蓮池。大きなブロンズのカエルが池に飛び込もうとして身構えている。蔦の絡む石垣の横に、こんな絵になる案内プレートが。こちらは本物の、蓮の葉の上で悟りを開こうとしているカエル。タオルスタッフの笑顔と白い歯が眩しい大人のリゾートのホテルにあるのは、眺めるためのプール。ほとんど誰も泳がない。 プールサイドで本を読み、身体を焼き、たまに火照った身体を冷ますためにある。そして、適度な隣との距離が、大人のカップル同士の小さなテリトリーを分け、 二人だけの空間を作る。それぞれに濃密な空気が流れる。プールに映る夕日、ダタイ最終日の夕暮れ

2006年夏、憧れのHideaway、ランカウイ島の隠れ家リゾート「ザ・ダタイ」を訪れた。このホテルへのチェック・インは、夜をお薦めする。お気楽夫婦も、事前に何度も何度も写真を眺めていた。だから、この二頭の木馬も、映像として情報として知ってはいた。それなのに、その風景を目にした瞬間、このホテルと恋に落ちた。

エントランス・ロビーを通り過ぎて、バーに向かう途中に蓮池がある。その池に浮かぶ2頭の姿を前に、心が浮き立たない人がいるだろうか。これからのヴァカンスの日々を期待させる、素晴らしい演出だ。チェック・インの手続きをするバーのソファから、エントランスを振り返る。輝く木馬、照明で作り物のように鮮やかに輝く植物が目に入る。ミントの香りがするウェット・タオルが供される。ふ~っ。昨日までの些事は全て忘れてしまう。さぁ、ヴァカンスの時間のはじまりだ。

【快楽主義宣言より】

「居心地の良い場所」 2006年9月3日

「憧憬の隠れ家ホテル」 2006年9月2日