バリアフリーの宿「玉の湯/浅間温泉」
2005年 10 月15日(土)
間に合った。旅から帰って、正直そう思って、ほっとした。…私には、大事な宿題があった。妻の両親と自分の両親と一緒に家族旅行にでかけること。理由あってなかなか会えなかった家族同士。離れた街に住む年老いたお互いの両親と一緒に泊りがけで旅をするのは、今後ますます難しくなるだろうと思っていた。もしかしたら、これが最初で最後のチャンスかもしれない。…この春、念願叶って総勢11人で信州に出かけることができた。
宿泊先は車椅子生活の私の母のためにバリアフリーであることが大前提。そして父と母が二人で、誰も気にせずに貸切風呂に入れること。この条件に適う宿を選ぶのは難しかったが、松本の浅間温泉に、ぴったりの宿があった。車椅子のまま部屋の中まで入れる和洋室と、介護用のリフトが持ち込める貸切風呂。全員が椅子で食べられるやはり貸切の小宴会場。お互いが数百キロ移動しなければいけないけれど、ちょうどお互いの中間程度の距離。
楽しい旅だった。山が好きだった母、そして父。母が倒れる前には、仲間とあるいは二人で遠くの山までトレッキングに出かけていた。そして母が倒れてからも、二人でドライブ。向かうのは、遠く青々とした山並みが見渡せる、野草が咲き鳥が啼く、そんなコースが多かった。北アルプスの山々を望める温泉地。それもその場所を選んだ理由だった。そして期待通り、小ぢんまりとした良い宿だった。車椅子のままでサロンコンサートを聴くこともできた。弟家族は夜中にカラオケに出かけた。(ちょっと一緒に行きたかった)
母が特別養護老人ホームに入ったのは、その旅行から帰った翌日だった。しばらく後に、父から届いたはがきで知った。私たち夫婦には事前に知らされていなかった。入所が決まったのは、私たちが旅行に誘う前だったという。母は、ずっと楽しみにしていてくれたらしい。長時間の移動に耐え、頑張ってくれたらしい。母や父から、宿で何度もお礼を言われた。とんでもない、お礼を言わなければいけないのは私だ。父と母に感謝。…いろんなものに、間に合った。あ、末弟夫婦は仕事が忙しく参加できなかったんだ。…間に合わない人生も、ある。