幸福な親娘と共に「義父母都民化計画」

TOKYO01TOKYO026月、お気楽夫婦はイングランドに滞在していた…はずだった。旅の目的は日本スカッシュ界の至宝、渡邊聡美ちゃんが出場する「ブリティッシュOPEN」の観戦。彼女を応援をするためにロンドン、バーミンガムに滞在する予定で、観戦チケットはもちろん、航空券もホテルも手配済みだった。さらに裏テーマは、3月に役員を退任した私の“卒業旅行”として、“ビートルズの旅”だった。リバプールの「ストロベリー・フィールド」、ロンドンの「EMI本社」、「アビィ・ロード」など、リリー・フランキーの『ビートルズへの旅』を片手に巡る予定だった。ところが、出発の1ヶ月ほど前に、妻に1本の電話が掛かってきた。「こちら浜松の救急隊です」…義父が肺炎で倒れ、救急車で運ばれたという。「2時間で伺います」と新幹線に飛び乗った妻は、2週間以上帰って来られなかった。結局、旅は中止。妻は毎週のように浜松に通うことになった。

TOKYO04TOKYO03いにして、義父は肺炎の症状も軽く入院することもなく、半月ほどで熱も下がった。とは言え、腰椎を骨折して家事は自力ではほとんどできない義母の世話をするのは義父しかいない。妻のサポートも限界がある。困った。そんな時、ひとり留守宅にいた私の手元に1枚の新聞折込チラシが届いた。サービス付き高齢者向け住宅、いわゆる“サ高住”と呼ばれる施設だった。内容を見るとかなりの充実ぶり。24時間見守りサービスや、施設内に付随する介護施設との提携、広大な敷地内にある病院との連携、3食の食事は施設内のレストランで作りたてをいただけるし、ジムや大浴場まで整っている。何よりお気楽夫婦の自宅から徒歩圏内。素晴らしい。こんなところに住んでもらえればと帰宅した妻と相談。ダメ元で声を掛けてみるかと話したところ、意外にも検討の余地ありとの反応。では早速と義父母に代わって現地を見学してみた。

TOKYO06TOKYO05ねてみてびっくり。新聞折込チラシは元より、事前に入手したパンフレットより、実際の施設が素晴らしいのだった。広大な施設は元は大手保険会社の福利厚生施設(グランドなど)で、お気楽夫婦の住む地域の広域避難場所に指定されている場所。そこが複合的に再開発され、9ha(東京ドーム2個分)の広大な緑の中に、ファミリー向け分譲マンション、クリニックモール、公園、テニスコート、グランドなどが配されているのだ。建物に入ってすぐに、暖炉やソファ、グランドピアノまである吹き抜けの開放的なロビー、コンシェルジェデスク、正面には噴水まで付いた緑豊かな中庭が広がる。下手な高級ホテルより豪華。ゆったりとした食堂、カフェ、定期的に営業する美容室、シアタールーム、ジムにはなんと常勤のスタッフまでいて、多彩な居住者向けメニューが用意されている。自分たちが住みたい!と叫びそうになる。

TOKYO07TOKYO08室もこのような施設としては充分な広さと間取りが用意され、ベランダも広々として明るい。そして驚いたことに、モデルルームとして案内された部屋のベランダから、お気楽夫婦の住むマンションが見えたのだ!営業担当者にそう伝えると、「それは素晴らしい。きっと運命ですね」と、営業トークとしては陳腐だけれど、まさしくその通り。すぐに義父母向けのプレゼンテーション資料をパワポで作成。これまで何千枚も企画書、提案書を作ってきたのはこのためだったのか!という我ながら素晴らしい出来。パソコンをTVに繋いで提案すると、「良いねぇ」「住んじゃう?」と期待以上の反応。連れ出すのは不可能かと思われた義母も下見に行くと言う。何度目かのびっくり。

TOKYO09TOKYO10幹線のグリーン車で送り迎え、都内に入ってしまうと「都会は混んでて嫌!」と言われてしまう恐れがあったので新横浜で下車しタクシーに乗せて前泊地のホテルへ。翌日はタクシーで現地へ、下見した後はタクシーで新横浜経由で帰宅。そこからとんとん拍子に話が進み、契約することに。最大のびっくり。2人とも90年近く生まれた地から離れて住んだことがないのに、終の住まいとして東京を選んだ。お試し期間を作り、戻っても良いように自宅の処分は先にとも思っていたのに、すぐ売却しようという決断。ますます凄い。妻がキラーコンテンツであることは明白ではあった。私からの提案もそれが肝だった。結果、ひとり娘の傍に住めるという幸福を選んだ2人。両親に選んでもらえた妻の幸福。なんて幸福な親娘であることか。羨ましいほどだ。

TOKYO11TOKYO12し、妻のハードワークはそれからが本番だった。転居に関わる諸手続きの煩雑さ。住民票、電気、水道、TVなどの手続きはもちろん、複数の金融機関に資金移動や解約の手配をし、さらに複数の病院に紹介状を書いてもらい、引越し、廃棄物処理などの業者手配など、毎週のように帰省しても追いつかないほどの作業量。その合間を縫ってお気楽夫婦本来の(笑)仕事であるハイアットの修行も行わなければいけない。この春から秋にかけての妻のスケジュールは、もはや“お気楽”では決してなく、会社を退職し、非常勤のアドバイザリー契約に変わっていなければ不可能だった。その点、測ったように(決して良いことではないが)良いタイミングで義母が怪我をし、義父が倒れたものだ。

TOKYO13TOKYO14越し本番。前々日から泊まり込み、最後で最大の作業。最後の夜には従弟も挨拶に来てくれた。しかし、家具を運び出し、さっぱりとしたそれまでの住まいへのお別れもあっさりしたもので、お気楽夫婦の方が却ってしんみり。新幹線での送り迎えも以前の通り、横浜で前泊し、タクシーで新居へ。それまでに家具を買い替えたり、カーテン、家電製品など、身の回りのかなりのモノを処分してもらい、義父母の新居を整えた。「あら、良い感じだわね。ありがとね」と感想もあっさり。義父母の感情の波が穏やかなのは妻と同様。引越し後の後片付けもフルパワーの妻は笑顔で答える。子供が親の住まいを整えようとする際に、こんなに完璧を目指すのかという徹底ぶり。その愛情に感動すら覚える。逆に私ができることは限られるけれど、些かの役には立ったか。

「今日はサッカーの大会らしい。ただいま観戦中」サポートに行っている妻からLINEで報告。送られてきた写真はベランダで子供たちのプレーを見守る義母の後ろ姿。人工芝の緑と周囲の木々が心地良さそうだ。10月1日の「都民の日」を前に、この9月で義父母は東京都民となった。義父が倒れて4ヶ月余り、あっという間にご近所住まいになった。まだ部分的に現実感はないけれど、明日にはまた新しい家具が届き、夏物の整理もしなければと、現実の課題は毎日のように否応なくやって来る。「でも、これからは安心して旅行に行けるしね」と妻。やはりお気楽な(ちょっと照れ隠しの)妻だった。これにて「義父母都民化計画」第1弾の終了。

…か?

北へぐるっと“乗り鉄”の旅「墓参ツアー2025夏」

Tohoku02Tohoku012025年夏、墓参の旅に出た。故人を忍ぶのが第一義ではあるが、その墓を守る弟たちや従妹を訪ねる旅でもある。まずは新潟へ。前年に亡くなった伯母の墓前を訪ね、従妹と新潟の街を巡り、酒席を共にすることが旅の最初のミッション。上越新幹線で2時間。まずは新潟名物「タレカツ丼」の名店、「とんかつ政ちゃん」へ。甘辛のタレに浸した薄切りのヒレカツが丼ご飯の上に乗っている。これがサクサクと香ばしく何とも美味しい。1枚単位でオーダーできるのも素晴らしい。期待以上の味。濃いめのソースを付けてキャベツの千切りを敷いた長野や福井のソースカツ丼とはまた違う旨さ。墓参りの後には「2002サッカーW杯」の会場となった「ビッグスワン」を見学。白鳥が飛来する鳥屋野潟に面し、その愛称の通り水面と青空に映える美しいスタジアムだ。

Tohoku03Tohoku04のミッションは父母の墓参。羽越本線沿いに、日本海を眺めつつ(迎えに来てくれた次弟の車で)山形県へ。途中、鮭の街として有名な村上市に立ち寄り、鮭づくしのランチをいただく。平安時代から朝廷に献上されていたという村上市を流れる三面川の鮭。江戸時代には村上藩の重要な財源となり、世界で初めて自然保護増殖を行なったという。昔から“塩引鮭”という独特の保存方法があり、村上に近い我が故郷でも年末になると各家々が軒先に鮭を吊るしていた。鮭の頭を使った「氷頭なます」や鮭の身を日本酒に漬けて熟成させた「酒浸し」など、あらゆる部位を大切にいただく食文化は今も残っている。そしてどれももちろん旨い。そんな村上の鮭文化を伝える博物館「いよぼや会館*」で鮭の生態を知る。*「いよ」も、「ぼや」も魚の意味。村上近辺でいよぼやと呼ばれる鮭は「魚の中の魚」という意味。そう言えば子供の頃、確かに鮭のことをそう呼んでいた。

Tohoku05Tohoku06郷で亡き父母の墓参りを済ませた後には、懐かしい顔が大勢で待っていた。地元の同級生(小中学校)たちが10人以上集まり、ミニ同級会を開いてくれた。間もなく古希(70歳)を迎えようというメンバー。昨秋、中学時代に生徒会長をやった同級生(ずば抜けて勉強もスポーツもできた彼はずっと元気でいると思っていた)が亡くなった。改めて命の限りあることを実感した。そこで、元気な内に集まろう!古希を祝う同級会をやろう!と呼びかけるために懐かしい写真を編集し、お得意のムービーを作成してきていた。それを皆んなに見てもらおうというのが私の目論見だった。「あぁ〜、そうだった」「あれは誰だ?」「ほら、お前がいるぞ!」「おぉ〜懐かしい!」と映像が流れ始めるとすぐに大盛り上がり。ムービーが終わっても「もう一度最初から!」とリクエストが入る。大成功。こんな調子で本番を迎えたい。その日は「あつみ温泉」の「萬国屋」という人気旅館(実は姪が勤務しており、還暦の同級会の会場でもあった)に宿泊。

Tohoku07Tohoku08弟の還暦を祝うのも大切なミッション。故郷鶴岡から北上した後に東へ、そして南へ。陸羽西線、奥羽本線と最上川に沿って弟の嫁ぎ先(彼はひとり娘の婿養子になった)「かみのやま温泉」までドライブ。祝いの席の会場は「古窯」という老舗旅館。前日宿泊した「萬国屋」と同系列の宿であり、末弟が披露宴を行なった記念すべき場所でもある。お祝いに集まったのは、次弟の家族など総勢9名。父母が亡くなって以降、なかなか一族全員で顔を合わせる機会も少なくなり、皆んなで集まる“理由付け”をする必要があった。そこで思いついたのが末弟の還暦祝い。そしてその前後に墓参などのスケジュールを入れたというのが今回の旅の経緯。宴席の後はのんびりと温泉に浸かり、翌日の朝食で地元の美味しい料理を堪能。温泉旅の風情を楽しんだ。

Tohoku09Tohoku10後のミッションは山形駅から仙山線に乗って仙台の(娘のような若い)友人を訪ねること。彼女とはあるきっかけで仙台で知り合い、東京で何度か一緒に食事をし、中目黒の仮住まいや自宅、パークハイアットのパーティにも来てもらった。知り合ったきっかけになったスカッシュ仲間Nくん抜きでも(笑)、お互いに会いたいと思う大切な友人になった。ランチに仙台ではお約束の牛タンを「利久のイタリアンCUCINA」という変化球でいただき、仙台の街をぶらぶらした後、夕刻に仕事帰りの友人と待合せ。「飲み喰い処 玄孫(やしゃご)」という地元で人気の居酒屋。私の故郷鶴岡にあった築60年の商家の蔵を移築したという趣ある佇まい。人気の牛すじ豆腐、地の魚の刺身の盛合せなど、シンプルで食材の力が強い料理が旨い。地元の酒も旨い。またNくん抜きでも良いから(笑)飲もうね♬と別れた楽しい時間だった。Nくん、次回はご一緒に♡

Tohoku11Tohoku12終日、上越新幹線、羽越本線(乗ってないけど)、陸羽西線(同左)、奥羽本線(同左)、仙山線と乗り継いで来た(乗ってないのに)旅を締めくくるのは、東北新幹線ではなく、あえて常磐線。新幹線なら90分で東京に到着するところを、特急で5時間を掛けて、それも途中下車までして帰ろうという“乗り鉄”らしいコース。その途中下車に選んだのは、日立駅。こんな機会でもなければ乗らない路線、降りることもない駅。世界で最も美しい駅のひとつとして知られ、駅舎から太平洋に向かって伸びるガラス張りで光に溢れた展望スペースが確かに美しい。海と空を手づかみできそうな距離感。清々しい空間だ。その先端にある「シーバーズカフェ」でランチをいただき、すっかりミーハーな(死語?)観光客気分。実際そうだしね。これにて東京へ戻りミッション完了。

こうして“旅人”たるお気楽夫婦の夏の締めくくりは、北への旅だった。滞在型のハイアット修行は(修行したくてもハイアットホテルがない)しばしお休みして、新鮮な移動旅。これもまた楽し。「なかなかハードな旅程だったね」と、さすがのお気楽妻もややお疲れ気味。かと思えば、「次はどこだっけ?京都と奈良か。それも楽しみだね♬」と新たな旅を思う妻。そして私。…つくづくタフな2人だ。

長期滞在はここに♬「グランドハイアット クラルンプール」

IMG_0830 2IMG_1080IMG_1085京は暑い!と脱出して向かった鄙びたマレーシアのリゾート、クアンタンでの滞在の後は、首都である大都会クアラルンプールに。3度目の訪問とは言え、20年ぶり。その間すごいスピードで都市化が進んだようで、街はすっかり様変わりしていた。中心部のKLCCには超高層ビルが立ち並び、街の象徴であり首領である「ペトロナスツインタワー」がそれらを睥睨する。その配下であるスカイスクレーパーのひとつ、「グランドハイアットクアラルンプール」がお気楽夫婦の滞在先だ。1週間の長期滞在のためにと予約したのはグランドスイートという105㎡の巨大な客室。KLCC公園を見下ろし、リビングには大きなデスク(リモートワークにも向いている)まで付いている。これはすこぶる快適だ。

IMG_0754IMG_0883 2IMG_0987内の施設も充実。周囲に無料のカバナ(天蓋付きのプライベートスペース)が配されたプールと開放的なプールサイドバー。ジャグジーバスやサウナが付いたシャワー&ロッカールーム、本格的かつ最新のマシンが充実のジム。比較的お手頃な料金でレベルの高いトリートメントが受けられるスパ。これだけでお籠りには充分。そしてなんと言ってもホテル内からの眺望が素晴らしい。エントランスから最上階のフロントに向けてエレベータを降りると、全面に広がる大きな窓がば〜んと目の前に現れる。客室からはもちろん、朝食レストラン(360度全ての方向が大きな窓)やクラブラウンジもKLCC公園や周囲の街並みを見下ろす絶景ビュー。これは朝に夕に、時間ごとに変化する風景は眺めて飽きない。

IMG_0784IMG_0813 2IMG_0909 2きないと言えば、ホテル内の朝食ビュフェやクラブラウンジのメニューが毎日変化に富んでいて、またその料理の水準が高く、実に素晴らしい。そして何よりも、その料理のプレゼンテーションがオシャレでイケてるのだ。例えば朝食。毎朝何種類かのデニッシュがスタイリッシュに、蠱惑的に並べられる。ハード系のパンも何種類か追随し、卵料理が日替わり(たまに温泉卵とかまで)で供され、それぞれにPOPが添えられる。これが実に悩ましいのだ。中華粥やローカルフードなども充実しているのに、日替わりのデニッシュの魅力に負けてしまいそうになる。本当に困る。クラブラウンジのカクテルタイムの料理も本格的。さらに各種アルコールも飲み放題。これでは外に食べに行けないではないか。

IMG_0944IMG_0957IMG_0872 2食にたっぷりと美味しく食べて、夕方のカクテルタイムに戻って来なければということになると、せめて昼時に街に出ようかと日中の“夜市”に出かけたり、夕刻のKLCC公園を散歩したりする。これが楽しいのだ。どこに行ってもあまり観光名所には出向かないお気楽夫婦。けれど、地元のスーパーマーケットも含め、市場巡りは大好き。ドリアンがこれでもか!と並べられていたり、真っ赤なエビが山積みになっていたり、正体不明の色鮮やかな食品がピラミッド状にディスプレーされていたりするだけで心踊る。KLCC公園をそぞろ歩きながらペトロナスツインタワーのイルミネーションや噴水ショーに見惚れ、あぁ良い街じゃないかと微笑みあったりする。いや、本当に暮らすように穏やかに過ごせる街だ。

IMG_0822 2IMG_1021IMG_1023ちろんスカッシュラケットを持参した2人。何と言ってもマレーシアはかつての女子世界チャンピオン「ニコール・デーヴィッド」を輩出したスカッシュ強豪国。市内のスカッシュコートを2ヶ所ほど巡り、たっぷり汗を流したのは言うまでもない。どちらもパブリックのコートで、コート数も7〜12面あり、大きな大会が開催されたりするコートのようだったが、シャワールームなどの設備はチープで、逆に言えばそれだけ普通に近場に存在するのだ。そのうち1ヶ所のコートには冷房もなく、シーリングファンだけ。2時間の予約をさすがに早めに切り上げた。ナショナルコート(ニコールの名前が冠されたコートもある)は長期修繕工事のため休館中で使えなかったことだけはやや悔やまれはするが。

1週間の滞在が終わり、最終日にはお約束のスパトリートメントでまったりしたお気楽妻。「このホテル、また来るよ!」と断言。ん、分かった。そう断言するだけの魅力が、確かにこのホテルと街にはある。その上、世界で最も安価にラグジュアリーホテルに宿泊できる街として名を馳せるクアラルンプール。これは長期滞在に再訪するしかないだろう。またいつか元気な内に、スカッシュラケットを抱えて。

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SINCE 1.May 2005