読書の秋「秋休みの推薦図書」
2007年 9 月23日(日)
子供の頃、夏休みの「推薦図書」が嫌いだった。推薦された作品が嫌いだった訳ではなく、子供が読むべき本、というカテゴライズされた作品たちが嫌いだった。そう、早い話が嫌な子供だった訳だ。それが今は、嫌な大人。人間そうそう変るわけはない。ところで、その嫌な大人になった今、子供もいないのに<子供に読ませたい本>を立て続けに読んだ。読んだ後に、これを小学生や中学生、高校生ぐらいのガキ共に読んで欲しいなぁ、と思わず思わせる本。ぜひ“IGA推薦図書”に加えたい。それにしても、やっぱり身勝手で嫌な大人になっているなぁ。
奥田英朗の作品は、非現実的なストーリーが、独特の世界の中で成立している。こんな医者いるわけない!と思わせる伊来部一郎の活躍する『イン・ザ・プール』がその代表。この『サウスバウンド』にしても同様。こんな親父、今時いないだろうっ!と突っ込みたくなるけれど、するするとその物語の中に絡みとられ、いつしか拍手せんばかりに主人公たちを応援している自分を発見してしまう。現実にはないけれど、あって欲しい世界。いないだろうけど、いて欲しい人々。中野に、沖縄に、そんな人々が活躍する。そう、活躍するのだ。読むべしの上下2冊。
佐藤多佳子『黄色い目の魚』では、ちょい不良だけど大人になり切れない大人たちと、大人にならなきゃと頑張ってしまう多感な季節の子供たちを、実にさらりと、生き生きと描きあげる。『サウスバウンド』と同様に、現実的には存在が難しいだろう不思議な親子の関係を、あって欲しい関係として無理なく読者に受け入れさせる。それにしても佐藤多佳子の文章はそのセリフのリアリティとも相まって、実に読み易い。彼女の創った世界なのに、自分が経験しているような身近な世界として目の前に現れる。登場人物の造形がはっきりとして、それでも全てを語らず、読者に余韻も残す。’07年本屋大賞『一瞬の風になれ』の文庫化が待ち遠しい。
中沢けい『楽隊のうさぎ』を読んでいると、“音”が聞こえてくる。それはオーケストラの“音”だけではなく、学校の音、風の音、夜の音、耳を澄ませて聞こうとすれば聞こえてくるあらゆる音。続編の『うさぎとトランペット』にも通じる、“うさぎの耳”がキーポイント。音楽って、こんなに豊かなんだと文字を通じて思わせる文章。楽器ができる人が羨ましくなり、今からでも始めようかと思わせるストーリー。・・・3連休も多い秋の夜長、こんな本を読んで過ごすのも悪くない。もちろん、いずれも大人のための本でもある。子供がいる大人のための、子供に戻りたい大人のための、そしてかつて子供だった全ての大人のための。