Archive for 12 月 16th, 2007

下心の鍋「チーズフォンデュ」

Photoオムレツ専用の小さなフライパン、ミルクパン、鉄製の本格的な北京鍋や寸胴があるのに、土鍋がない。そしてなぜかチーズフォンデュの鍋はある。お気楽夫婦の食生活には偏りがある。自宅で寄せ鍋は食べないのに、チーズフォンデュは召し上がる。ただし本格的に数種類のチーズを合わせて作るのではなく、スーパーで売っているお気楽なパッケージ。鍋にニンニクをすり込み、白ワインを煮立たせアルコールを軽く飛ばし、チーズを数回に分けて丁寧に溶かし、くつくつぷくぷくと柔らかく盛り上がる状態をキャンドルの上でキープする。あとはフランスパンを小さく切り、ソーセージを茹でる。2人が好きなお手軽鍋。

初めてチーズフォンデュを食べたのは遥か昔の学生時代。パリに遊学していたひと月ちょっとの間にスイスに向かった一人旅。マッターホルンがどうしても見たくて、氷河急行に乗り込みツェルマットに到着。駅前の観光案内所で安宿を探し、その有名な観光の街に数日滞在した。最初の晩に独りで出かけたレストランではどのテーブルでも同じように鍋を囲んでいる。細長いフォークのようなものでパンを刺して鍋に突っ込んでいる。あれ何?あれください。旅の基本は隣のテーブルの料理を観察し、美味しそうだったら指差しオーダー。山盛りのフランスパンと一緒に運ばれてきた小さな鍋の中には良い香りのとろとろチーズ。見様見真似でチーズを絡めてパンを一口頬張る。あぢっ!ほぉ~っ。こりゃ旨いっ!デキャンタで頼んだワインを飲みながら独り鍋。ぽかぽかと身体が温まるご機嫌な美味しさ。嬉しい本場のフォンデュ・オ・フロマージュ初体験。

Photo_2女性が鍋の中にパンを落としてしまったら、隣の人にキスしなきゃいけないんだよ・・・。そんなことを言いながら好きな女の子と2人チーズフォンデュ。下心満々の20代。楽しく食事をしながらも今後の展開について妄想を廻らす若き私。若さゆえにそんなセリフも滑り気味。あいにく器用にチーズをパンにからめて美味しそうに食べる彼女はパンを落とすことなく食事を終えた。そして男性がパンを落としたらワインをおごるんだって、ということばを続けてしまった私がワインをご馳走するだけではなく、食事代を持ったことは言うまでもない。

「初めて食べたときに、こんな美味しい料理があるんだぁ~ってびっくりしたなぁ・・・」妻はいつになく饒舌。思い出を語り始める。珍しくちょっと遠い目になっている。あれ?顔が少し赤いか?「ちょっとぉ、なんかワイン入れ過ぎてなかった?」あ、確かに多めに入れたら美味しそうだなぁと、どぼどぼと注いだ。「なんか酔っ払ってるかなぁ」はい、そうかもしれません。妻は大のパン好き。ぱくぱくと良いペースで食べていた。でもお酒はほぼ飲めない。酒の味は好きだし、酒の違いが分かる舌を持っているけれど、アルコールを分解する肝臓は持っていない。あらら。「酔っ払ったぁ、私に酒飲ますなぁ」なんだか楽しそう。酔払いの(いつもの私の)気持が分かるってもの。「飲まなくても分かってるから、飲ませるな」そして本格的に酔っている妻に、下心もなく酔わせてしまったことを心で詫びながら、楽しくお皿を洗うオヤヂだった。

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