センチメンタルジャーニー「日本の宿 古窯」かみのやま温泉

Photo変わらず新幹線に乗ると、条件反射的にビールが飲みたくなる。それは東海道に限らず、上越でも、東北新幹線でも同様。ある週末、新装成った東京駅地下グランスタでお弁当を買い込んで山形新幹線に乗り込んだ。車窓から眺める散り際の桜を眺めながら、弁当を肴にビールをぐびぐび。幸せである。北に向かう列車は、進むほどに春を迎える時間を遡る。この時期、北国への旅はタイムトラベル。ところで、旅の目的は母の墓参。昨夏に亡くなった母の墓ができあがったのは昨秋。雪解けを待ち、初めての墓参り。旅の初日に離れて暮らす弟を訪ね、翌日に一緒に母を訪ねようという計画。

Photo_2弟が住む街は、蔵王連山を望む温泉街。中でも全国的に名旅館として知られる「日本の宿 古窯(こよう)」を訪れた。勘の良い方ならお分かりのように、弟に会うということを口実に、この宿に泊まりたかっただけ。宿の名前の由来は、敷地内で発見された奈良時代の窯の跡からだという。それにちなんで館内には著名な方たちが残した素焼きの皿が大量に展示されている。こんな方まで来訪していたのかという楽しみ方もあれば、その人となりを味わう楽しみ方など、時間を忘れて見入ってしまう。井上ひさし、森敦など、山形県に所縁のある作家の皿も多かったが、妻が注目したのは椎名誠が残した一枚。風呂上りではなくとも脱力してしまう良い味。

Photo_12王連峰を眺めながら、のんびり貸切風呂に浸かる。は~、幸せ。さらさらのお湯が肌に心地良い。良いお湯だ。火照った身体を冷やそうと、遠い蔵王の山並みに向かって裸で腰に手をあて、“どうだ!ポーズ”を取る。バカである。しかし、実に気分は爽快。からぁ~ん。頭の中に<鹿威し>の音が響く。何も考えないという状態は実に清々しい。ストレスという文字が頭の中から消えて行く。ふ~。車中でたっぷり飲んだ酔いが霧散する。風呂上りにはビールだぜっ♪それも、キンキンに冷えた瓶ビール。シュポンと栓を抜き、トクットクトクトクと手酌で小さなグラスに注ぐビール。おっとっと、とか言いながら慌てて零れそうな泡を舐める。くぅ~っ。この形式美溢れた湯上りの一杯が、たまらなく旨いのだ。

Photo_3んな気分になればお腹も空こうというもの。個室の食事処に案内され、地元の名物料理に舌鼓。山形は海の幸、山の幸に恵まれ、素材が良いから料理人も腕の振るいがいがあるはず。なのに亡くなった母は、素材だけで勝負の料理が多かったなぁなどと突然思い出す。山形牛のすき焼も、山形名物いも煮も、お新香も、ご飯も、実に旨い。幸せである。ところで、この宿は部屋や廊下はもちろん、エレベータ内など館内の至るところに生花を活けてある。草月流の活け花の先生をしていた母は、こんな宿に泊まったら喜んだだろうななどと思いながら館内を散策。亡き母を思い出しながら墓前を訪ねる旅。つくづく幸せである。楽しく、美味しいセンチメンタルジャーニー。

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