マスターは修行中「Bar LAPITA(ラピタ)開店!」鶴岡市
2010年 8 月14日(土)
猛暑の夏にも慣れかけた7月末、嬉しい便りが届いた。故郷で暮らす弟から、市役所を辞めて開店準備してきた店ができるという挨拶状。店の名前はLAPITA(ラピタ)。宮崎駿監督の作品『天空の城ラピュタ』ではなく、南太平洋の海洋民族の名前であり、小学館から発行されていた(現在は休刊)雑誌の名前にちなんでいるという。雑誌ラピタのコンセプトは「大人の少年誌」だった。休刊中というのが縁起は悪いが、弟らしいネーミング。さっそく開店祝いを手配しつつ、お披露目をしてもらう日程調整を開始。そう言えば、昨夏に亡くなった末弟の義父の一周忌にも出席しなければ。そうか、いっそ1泊2日で、祝いと弔いの旅にしよう!
ある週末、お気楽夫婦は慌ただしい旅に出た。羽田空港では開業間近の国際線ターミナルや、4本目のD滑走路を眺めながら飛び立ち、庄内空港では晴天に恵まれたおかげで、南の島のリゾートのような青く光る海岸線を眺めながら無事に着陸。そして、迎えにきてくれた弟と共に、生家近くにあるヨットハーバーを訪ね、母の墓前に花を手向けた。さらに、川遊びで身体を冷ました後にビールをきゅっと飲み干し、スタンバイOK。マスター(弟)の運転で宿泊先のホテルに向かう。お気楽夫婦をホテルに降ろすと、マスターは開店準備のために店に向かう。
「お待たせしました!」義妹と姪がホテルに迎えに来る。店の前にはお祝いの花と「本日貸切」の案内板。階段を上がり、ドアを開ける。ほほぉ。想像以上に広い店。いわゆる“居抜き”で借りたため、以前の経営者の嗜好で揃えたソファ、シャンデリア、内装はカラオケスナック系。大きなモニターや壁に飾られたLPレコードのジャケット、棚一杯のCDなど、マスターの趣味の品々が溢れる。店にやってきた客は、古い雑誌コレクションの前で、ジャケットの前で、CDラックの前で、それぞれの思いで佇む場所らしい。スナック系の内装と、’70年代フォーク&ロック、’80年代POPSのBGMがまだ溶合ってはいない。けれど、これは間違いなく弟の城、マスターの部屋。「Common a my room!」と招かれ、やってきた彼の友人の気分。
2人が贈った胡蝶蘭の鉢の傍、ボックス席のソファに座り、改めて店内を眺める。カウンタの中では、まだプロになりきっていないマスターがぎこちなく微笑む。「開店準備で10kg痩せたんだ。やっぱり諸先輩に聞いた通りたいへんだった」と、それでも満足げに語る。彼の一番の財産は、役所勤めだった頃の人脈。開店から1週間程、毎日がお披露目の貸切営業だったとのこと。市長をはじめとした役所時代の諸先輩、同僚、高校時代の同級生、後輩、バレーボールのコーチをしていた頃の教え子たち、その父兄…。地元に密着した生活をしていたからこそ、広がった人脈ネットワーク。そんなお世話になった方々の来店が一巡した頃、本当の勝負になる。知人友人相手に修行中のマスターが、プロになった頃に店の展望が開け…て欲しい。
「良い店だね」地元名産のだだ茶豆を齧りながら、お酒を飲めない妻が呟く。うん、良いスペースだ。自分で注いだ生ビールを味わいながら、私は思う。このスペースを愛してくれる客を相手に、良い意味でゼータクな商売をすれば良い。客商売はたいへんだけど、経営はかんたんではないけれど、組織の中での煩わしい気遣いはいらない。好きなだけ仕事を続けることができる。好きな街で仕事ができる。そんな道を、そんな仕事を選んだマスター。Go Ahead!