居心地の良い場所「さかなの寄り処 てとら」桜上水
2011年 9 月25日(日)
夏の終わりに訪ねた店があった。ちょっと変わった店名。てとら。日本の海岸風景を破壊すると作家の椎名誠が嘆く、あのテトラポッドのてとら。テトラポッドとは、海岸の砂の流出を防ぐことなどを目的に、消波ブロックとして使われている円錐状の4つ足のコンクリートの塊。一方で複雑に絡み合って設置されるテトラポッドが魚礁の役割を果たし、格好の釣り場となっているところも多い。そこで「さかなの寄り処 てとら」という店名。この店は、お気に入りの中華料理店「SILIN火龍園」の総支配人だった根本さんから、新規OPENのご案内をいただいていた。店主のジローさんは、やはりSILINで顔馴染みだった方。彼らは同時期に店を辞め、それぞれ独立を目指し準備をしてきた。そして一足先に開店を果たしたジローさんの店を根本さんと一緒に訪ねた。
京王線桜上水駅の北口から2分ほど。地味な駅の、地味な路地に佇む小さな店。店の前には大きなテトラポッド。暖簾の向こうの引き戸を開けると、カウンタだけのこぢんまりとした店の全容が目に入る。長身で笑顔のジローさんが迎えてくれる。根本さんも近々ご結婚されるお相手を伴い来店。さっそく4人で乾杯。話を伺うと根本さんとジローさんは15年以上のお付き合い。料理人だったジローさんを火龍園に引っ張り、フロアのサービスを教えたのが根本さんだという。世田谷の火龍園で初めてお会いした際のジローさんの緊張した面持ちと違い、カウンタの彼は穏やかに笑っている。接客サービスを仕込まれた料理人の作る料理は目にも美味しく、釣りが大好きな店主の確かな目で選ばれた旬の魚たちは、新鮮で幸せな味。実に旨い。そして小さな店としては驚くほど充実した酒も。
「僕の店もようやく決まったんですよ」根本さんが嬉しそうに語る。親交の深い料理長とタッグを組んで、気軽に食べて飲める中華の店を世田谷線の松陰神社前に出すという。むむっ!それは嬉しい。馴染みのある、訪問しやすい街を選んでいただいた。そして相手を心地よくさせる笑顔と笑い声の持ち主である(近未来の)奥様が良い感じ。彼女もフロア担当として働くという。それは間違いなく良い店になるに違いない。そしてこの店も。根本さんのきめ細やかで柔らかな接客は「てとら」店主のジローさんに受け継がれ、なんとも居心地の良い空間になっている。そして勿論、根本さんがフロアにいる店は気遣いと活気のある良い店になるに違いない。今から開店が楽しみだ。
翌週、さっそくご近所の友人夫妻を伴い「てとら」再訪問。酒を飲まない友人夫妻、飲んべが同行すればこんな店も訪問し易い。同じく酒が飲めないお気楽妻も同様に、飲めないけれど酒の肴は大好き。「う~ん、魚が美味しいねぇ」実家が魚屋のご近所の友人(妻)。彼女のお墨付きであれば間違いない。穏やかで和やかな空気が流れる店内で、思わず笑顔の4人。カウンタの中では店主のジローさんの笑顔も。そこにカップルが来店。ことばを交わす内にジローさんの築地の仕入仲間の同業者であり、その日が初めての来店であることを知る。広がる笑顔の輪。すっかり常連さん気分で和むお気楽夫婦。満足、満腹と店を出る。店主とスタッフに見送られて店を出てしばらくすると、スタッフがダッシュで追いかけて来る。「IGAさぁ~ん、お忘れ物です!」ありがとう、ちょっと酔い過ぎか。
「また来なくちゃね」妻もすっかりお気に入り。ご近所の友人夫妻からも「美味しかったし、居心地が良かった」との感想メールが届いた。私はと言えば、ふっと、あのカウンタでひとり(お気楽妻同行でも可)冷や酒を飲み、美味しい魚をつまむ自分の姿が浮かぶことがある。てとら、行きたいなぁ…そんな感想と共に。テトラポッドに寄りつく魚のように、飲んべが寄り付く店。そんな居心地の良い場所をまたご近所に増やしてしまった。ジローさん、またお邪魔します!
■食いしん坊夫婦の御用達 「魚の寄り処 てとら」 *店の詳細などをご紹介
ねもきち
ジローという男は、フレッシュさや派手さはないですが、てとらの名物「一夜干しの魚」のように、じっくり陰干しされて一味増した旨味があります。ときに、一夜干しイカのように、噛めば噛むほど味がでてきます。IGAさんがおっしゃっているように、私たちは「居心地がいい店であり続けること」というキーワードを心に刻んで仕事をしてきました。魅力あるお店というのは、素敵なお客様方に集まっていただき、一緒に成長、熟成していくものだという考えからです。是非、時々は行ってやって、「てとら」を穏やかに熟成させるお手伝いをお願い致します。
IGA
ねもきちさん コメントありがとう&ご結婚おめでとうございます。てとらにも、松陰神社のお店にも、時々と言わずお邪魔します。・・・あぁ、一夜干しのサンマが食べたくなったぁ!