下高井戸は海の側?「まきたや」
2013年 7 月06日(土)
刺身は果たして料理なのだろうか。食材を仕入れて切って並べるだけじゃないか。そんな疑問は、この店を訪れると霧散する。下高井戸の「まきたや」。旬の美味しい魚を仕入れる目利きで、食材のコンディションを保ち、最も美味しく味わえる切り口で、食欲をそそる美しい盛付けを施し、実に見事なタイミングで供される。その日は、生シラスとタコを入れた盛合せをオーダー。組合せとして選ばれたキスと鰹を従え、生シラスが登場する。思わず見とれ会話が止まる美貌。食べてみて!と艶かしく訴える魚たち。そして美しく銀色に輝き、食べて食べて!と合唱する生シラスたち。見事な料理。
生シラスを箸でつまみ、生姜醤油を軽く付け、口の中へ迎える。うわぁ〜っ!思わず声が出る。するりとした独特の食感の生シラスの甘さと旨味、ほんのり生姜醤油の香りが口の中に広がる。身悶える旨さ。実は、数日前に仕事で出かけた逗子で、不漁のために生シラスが食べられなかった。漁のありなしで海の側でも食べられない新鮮でデリケートな魚。それがこの街で、この店で、食べられることの嬉しさ、ありがたさ。美味しいですねとカウンタ越しに板さんに声を掛ける。ちょっとはにかんで「ありがとうございます」と返される。奥ゆかしく、距離感も良い感じ。
「隊長、この店どれも美味しいですね。で、次は何食べます?お酒も次行きましょう♬」私を隊長と呼ぶ前職の後輩女子は、食欲たっぷりの上に飲んべ。連れて来るにはぴったり。鯵のなめろうはもちろん、筍にチーズを挟んで焼いた一品も、名物料理の牛肉豆腐温玉乗せも、「うぅ〜っ、美味しいっ」と唸る。まんさくの花に続き、信州の名酒、生もと造りくろさわ夏生をぐびり。ん、旨い。軽やかな夏の酒。同じく信州安曇野の大雪渓をぐびり。これまた旨い。ここ「まきたや」は、日本酒のラインナップが充実している嬉しい店。美味しい肴と魚たちに、思わず酒も進んでしまう困った店でもある。
「隊長、今日は終電の1本前で帰れました。自分で自分を誉めたい感じです」同行飲んべ女子のコメント。ふぅ〜む。酔っ払いは自分に対する評価基準が甘い。他人を観察すると良く判る、ということは自らも戒めなければと誓う。それにしてもよく飲んだ。最後に飲んだ「蒼空」という伏見のお酒は、爽やかで夏にぴったりの飲口。開店早々に入店し、カウンタの端でさし飲み。いつの間にか満席になり、予約なしの客を何組かお断りする程の人気店に、閉店まで居座った。店にとっては嫌な客。それでも居心地良く、美味しい酒と肴を味わいながら、延々と話を聞き、良く笑い、たっぷりと話をした。店との相性、飲む相手との相性が合えば、いつもこんな飲み方になる。
「いつものことじゃないですか」と飲んべ女子。言われてみると、その通り。「まぁ、彼女と飲むときはちょっと危険だね」と妻。ふぅむ。客観的に見てもそうらしい。海の側にあるような美味しい魚を供する店に、美味しい日本酒を心地良く飲ませてくれる店に行く際は、せいぜい飲み過ぎに注意しなければ。