大人の視点、オトナの味覚「倉敷」
2014年 4 月13日(日)
好きな街のひとつ倉敷を訪ねたのは、調べてみたら(なんとびっくり!)約20年ぶり、4度目だった。駅前の三越は天満屋に代わり、駅の北口にあったチボリ公園はアウトレットとショッピングセンターになっていた。それだけでも印象がかなり違う。タクシーに乗るほどの距離ではなっかたというおぼろげな記憶を辿り、前回の訪問(前職での出張)と同様に宿泊先としたホテルに向かう。前回と違うのは手にiPhoneの地図アプリがあること。いざとなればマンナビ機能を駆使し、迷うこともない。ホテルは倉敷最大の観光スポット「美観地区」に隣接する抜群のロケーション。さっそくチェックインの後、パソコンをレンタルしてサクッと仕事をし、美観地区の散策に出掛ける。
美観地区は、江戸時代のなまこ壁の蔵や屋敷が(土産物屋や飲食店だけど)建ちが並ぶ。電柱と電線の地下化でスカイラインもすっきり。そんな風景は美しいのだけれど、作り物っぽさも感じてしまうぎりぎりの線。なくなってしまった倉敷のチボリ公園、長崎のオランダ村、頑張っているハウステンボスと同種の趣。とは言え、本来なかった場所に造る西洋の街ではなく、古くからの街並を遺すのだから意味が違うのだけれど、街に生活の匂いや汚れがない。映画のオープンロケセットのような、フォトジェニックな街並。美しいけれど、観光させられている感があり、しっくり来ない。以前訪問した際には感じなかった違和感を味わう。摩れて汚れちまったオトナになったからだろうか。
違和感を払拭するために夜の街に出掛ける。向かったのは地元でも人気だという「多幸半」という小料理屋。ここでもiPhoneが大活躍。細い路地にある小さな入口を難なく発見。「たこはん」と読むその店の名物料理は、下津井のタコ料理。下津井は瀬戸大橋のたもと、瀬戸内の展望台鷲羽山の近くにある港町。その沖で獲れるタコは「下津井ダコ」として全国的に有名。倉敷に来たからにはタコ料理を食べねば。…と、後で知った(笑)。まずはタコのお造り。こりこりとした歯触りがタコの旨味を倍増する味わい。そして名物だというタコが入ったポテトサラダ。食べる前は「?」だが、これが絶妙に旨い。シンプルなポテトサラダに、淡白な茹でダコの組合せが斬新。癖になる味。
蛸を多幸と書く店名の通り、幸せがたっぷり詰まった店だ。そこで調子に乗り、これまた瀬戸内の美味シャコ酢をいただく。お頭、長い髭、殻付きのシャコ。視線を合わせるとやや不気味なやつら。けれども見た目と違って繊細で淡白な味。旨い。ワカモノの頃に食べた岡山名物「ままかり酢」は美味しいと思わなかったけれど、今なら美味しく食べられるのだろうか。などと回想しつつ、気になっていたメニュー「タコ酒」なるものをオーダー。聞けば「ふぐのひれ酒」のひれの代わりに干しふぐを使った燗酒だという。それください!猪口に口を付けると潮の香り。熱燗酒の香りと、炙った干しダコの香ばしさを一息に含む。んん、んまいっ♡ここにも幸あり。
倉敷は、アイビースクエアなど倉敷紡績(クラボウ)の産業遺産、大原美術館をはじめとした大原一族の文化遺産の街であり、街並保存という歴史的価値も備えた、いわば街づくりの先駆的成功例だ。今も好きな街であることに変わりはない。けれど、若い頃にしか見えない風景がある代わりに、ワカモノでは気付かない街の見え方もある。複数の視点を持つことで風景の奥行も、影も見えて来る。味覚も同様。舌が肥えたり口が驕るのではなく、年齢を重ねる毎に相応の味覚の幅を備える。取捨選択ができる分、余裕もできる。20年余りを経て訪ねた倉敷。新たな魅力と味力を発見した、良い旅だった。出張だった。