美味と美景のホテル「パレスホテル東京」
2018年 8 月11日(土)
学生時代、数多くのアルバイトをしながら大学とアテネ・フランセに通っていた。コンサートのスタッフ、花屋の店員、英会話スクールの雑務など、経験した雑多な職種の中でも飲食系のサービススタッフの仕事が多かった。建て替え前の「パレスホテル」では、宴会場の配膳係だった。結婚披露宴でシャンパンを抜くタイミングがズレたりの失敗もあったけれど、飲食系サービスのマナーと技術の基本を学んだ場所でもあった。
当時から(存在そのものは決して派手ではないけれど)パレスホテルは料理が美味しいと評判だった。宴会が終わった後、切り残したローストビーフをスタッフで味見することができた。ローストビーフ初体験。牛丼ばかり食べていた学生にとって、この世には何て美味しい肉料理があるんだ!という衝撃の味だった。…それから40年。当時の貧乏学生は、自腹でパレスホテルに食事に行けるくらいのオトナになった。感涙。
友人たちと一緒に向かったのは「琥珀宮」というホテル内にある中国飯店系の中華レストラン。「広東料理Foo」のサービススタッフだった根本さんが支配人を務める店だ。初訪問ということもあり、ランチでお試しと伺ったところ、絶品料理にノックアウト。前菜のローストポークの香ばしさ、点心5種の大根もちの絶妙な歯ざわり。悶絶の美味しさ。最もお手頃な彩り点心コースでも、味もサービスもボリュームにも満足。美味。
ランチの後は、客室でティータイム。その日は日曜日。最優先のスカッシュスクールは休講のため、お気楽妻のリクエストで5年ぶり2度目の「パレスホテル東京」に宿泊。客室のタイプは前回同様に皇居や和田倉噴水公園を望むVIEW、そしてちょっとゼータクに前回のデラックス(45㎡)よりやや広めのグランドデラックス(55㎡)。広めのバルコニー、そして何と言ってもバルコニーに面したVIEWバスが嬉しい。
バルコニーから眺められるのは、左手に東京駅近辺に聳えるスカイスクレーパー群。その高さ(100m)でかつて物議を醸した東京海上の茶色のビルが埋没する、丸ビル(179m)、新丸ビル(198m)をはじめとした200m近くの高さのビル群が皇居のお濠に沿って連なり、日比谷公園の傍らには出来立ての東京ミッドタウン日比谷(192m)が鎮座する。正面には虎ノ門、六本木、赤坂方面のビルが林立し、皇居の緑を縁取る。美景。
東京は美しい街なのかもしれない。決して景観を優先してきた訳ではなく、都市全体のグランドデザインもない。継ぎ接ぎだらけで、部分最適。けれども侵すべからざる空間として、皇居(江戸城)という存在が都心のさらに核となる景観を守った。パレスホテル東京を尖鋭として、皇居に攻め込んだビルたちはお濠で足止めを食らう。競うように立ち上がるビルたちは皇居を引き立てる額縁でしかない。だからこそ美しいのだ。
昭和40年代までは百尺(約30m)で制限されていた丸の内地区のビルの高さが、100m、200mと高層化すると同時に、複数のビルを合わせて建て替えることで大規模化を実現してきた。それらの丸の内のビル群の成長を、丸の内1−1−1という絶好の場所から見守っているのがパレスホテル東京だ。ビル群と緑が眩しい日中の風景も、黄昏時の眺めも、各ビルがその輝きを競い合う夜景も、どれも美しく、眺めて飽きることがない。
翌朝、朝食はインルームダイニングで。お気楽妻はお約束のエッグベネディクトがメインの洋食を満足そうに頬張る。私が選んだ和朝食は、ホテル朝食ランキングで自分史上最高の水準。どれも手が込んだ少量多品種の“おかず”がツボ。ついつい食べ過ぎたため、食後はレイトチェクアウトをお願いして、ジムでたっぷり汗を流す。「やっぱりこのホテルはいいね。住みたいね」と妻の評価は前回同様の最高水準。再訪必至。