継続するためには…「SQUASH JAPAN OPEN 2025」
2025年 10 月28日(火)
過日「SQUASH JAPAN OPEN -2025-」というスカッシュの国際大会が開催された。「JAPAN OPEN」と冠する大会として2002年の第27回以来、何と23年ぶりの復活だ。*第27回大会の参加選手には、今大会の実行委員長でもある渡邊祥広、佐野公彦、青山猛、松本淳など、当時の有力選手の名前が連なる。優勝はマレーシアのKenneth Low、女子は開催されなかった。スカッシュは2028年のLAオリンピックで初めて正式競技として採用され、来年名古屋で開催されるアジア大会の競技種目でもある。日本の有力選手も海外の国際大会に本格参戦し始め、女子TOPの渡邊聡美は現在世界ランキング8位(最高6位)、男子TOPの机龍之介は53位(最高47位)という戦績を残している。世界ランキングでTOP8に入るのは快挙と言える。それでも日本でのスカッシュを取り巻く環境は厳しい。
2002年当時、大きな大会が開催された「ルネサンス幕張(コート数4面?、2011年?に閉鎖)」や「コータコート(コート数9面、2006年に閉鎖)」などは既になく、国際大会を開催するインフラは整っているとは言えない。例えば、2025年10月に開催されたUSオープンの会場は22面のコートを有する。*フィラデルフィアにあるその施設は常設の観客席付き全面グラスコートが2面、ダブルスコートが2面もある。今回のJAPAN OPENは1回戦、2回戦は「Greetings Squash Yokohama(と言っても最寄りは北新横浜駅)」にある4面のコートで開催され、準々決勝、準決勝、決勝は西新宿の「新宿住友ビル三角広場」に設営された4面グラスコートで行われた。いずれの会場も観客席数は多いとは言えず、ましてや公式発表されてはいないが、有料入場者数は限定的だ。
イベントそのものは素晴らしかった。コンセプトを「スカッシュ×音楽×日本酒の祭典」と銘打って、音楽などのパフォーマンス、トークショーなどと組合せた複合イベントとして、スカッシュの認知を高める試みを行った。「スカッシュ」と「日本酒」をかけ、「スカッ酒 JAPAN OPEN」として全国32ヶ所の蔵元から日本酒の銘酒を集め、屋台で飲み比べができる食のイベントでもあった。酒を片手にスカッシュ観戦を楽しむことができた上に、立見席では無料で観戦できた。会場の造りも“映える”デザインで、三角広場の吹き抜けの巨大な空間の中に4面グラスコートが美しく浮かび上がる。フロントウォール裏の大きなモニターには、イベントの告知、複数のカメラで撮影した試合の中継を放映し、臨場感溢れる雰囲気になった。
エンジョイ・プレーヤーながら、30年ほどスカッシュを続けてきたお気楽夫婦。毎週(セミリタイア後は数回の)スカッシュのレッスンに励み、海外のリゾートに滞在する際にはスカッシュラケットを抱えて出かけ、国内のハイアット修行の際には最寄りのコートでプレーしてきた。スカッシュのおかげでスカッシュ仲間の輪も広がり、国内外のTOPプレーヤーとの接点も増えた。日本のTOP2人にささやかなサポートを数年間継続しており、今回の大会にも個人として若干のスポンサードを行った。*急遽シャレで作成したロゴが掲載され、ちょっとテレたけれど。それもこれも、2人が愛するスカッシュというスポーツを何とか日本においても元気にしたい、日本の選手たちに強くなって海外で活躍して欲しいという思いから。
大会は15K(男女の優勝賞金総額が15,000US$=225万円)というチャレンジャーという下位カテゴリーの大会の中では高額賞金の大会で、世界ランキング50〜120位クラスの選手が世界各国から日本にやって来た。男子優勝はイングランドの世界ランキング67位のSamuel Osborne Wilde、女子優勝はインドの世界ランキング93位(最高9位)のJoshna Chinappaという39歳の超ベテラン選手。*優勝したチナッパのプレーが凄かった。軽やかで絶妙なタッチで強打の若手プレーヤーをいなし、いつの間にかラリーを制していた。日本選手は残念ながら日本男子TOPの机龍之介、女子の杉本梨沙が準々決勝まで勝ち進むに止まった。とは言え、日本で、新宿で、目の前で、世界トップレベルのプレーを観戦できたことは多くの国内プレーヤー貴重な機会になったのではないか。
同時に会場はスカッシュプレーヤーの同窓会のような雰囲気でもあった。かつて一緒にプレーしていた仲間同士や、久しぶりに会う先輩、後輩があちこちで挨拶を交わし、酒を酌み交わしていた。それはそれで微笑ましいし、楽しい場ではあった。どのスポーツでも同様ではあるが、最大の観客はプレーヤーだ。けれど、そこまでで止まっていてはイベントとして成立しない。ましてや日本におけるスカッシュの競技人口だけではマーケットが小さ過ぎる。スカッシュ観戦に魅力を感じ、観て楽しいスポーツにならないとJAPAN OPENクラスの大会は継続できない。スポンサーを募り、クラウドファウンディングで運営費用を補ったけれど、今大会の収支は間違いなく厳しいであろう。では、大会を継続するためには何をしたら良いのか。何ができるのか。
スカッシュというスポーツに魅せる要素は多いし、多くの人に観てもらい人気のスポーツになる可能性はある。今大会もいろいろな工夫をして、イベント等で動員を図り、スカッシュを観たことがない客層を取り込もうと努力していた。けれど、登らなければいけない山はまだまだ高く険しい。同じラケットスポーツで人気のテニス、卓球、バドミントンと人気や動員などで先行する競技も決して順風満帆だったわけではなく、むしろ苦しんだ時代が長かったし、今も苦しんでいるのだと思う。スポーツや芸術は公共や民間、個人を問わず、何らかの形でサポートが必要だし、答えはひとつではない。2026年の名古屋アジア大会、2028年LAオリンピックに向けて、ひとりのエンジョイ・プレーヤーとして、何かできることがあればと目論む意気盛んなお気楽夫婦だった。「アジア大会もスカッシュの全日程観に行くよ!」と妻。はい、まずはそれくらいから。