春の味わい「天一/鮨いち伍」

TenichiFukinotou増しに風が暖かさを増し、春の訪れを感じる頃…手紙の書出しで時候の挨拶をするように、お気楽夫婦は春の兆しを感じ始めると頃になると決まって「行こうか!」とどちらからともなく言い合う店が2つある。ひとつは「天一」、それも銀座の本店ではなく、渋谷の東急本店にあるお気軽な支店。L字型のカウンタ席は8席ほどしかないが、小さい分だけ落ち着けるし、どの席からも揚場が目の前というのも楽しい。席に付き、額に入った天ぷらの“タネ”の一覧を眺める。さぁて、何から行こうか!と、心の中では食べる順番はとっくに決まっているのに、改めて口に出して確認する。春の儀式。真っ先に揚げてもらうのは、ふきのとう、タラの芽。春を食べにやって来たのだ。

TaranomeHamaguriTenだねぇ〜♬」ふきのとうの苦みと香りを頬張りながら、妻がしみじみと呟く。タラの芽の天ぷらは無くなった父の大好物だったなぁなどと、思い出しながらサクッとした歯応えを楽しむ。「もう稚鮎があるんだねぇ」と、毎年交わすことばも、毎年新しい。白ワインを飲みつつ、アスパラ、タマネギ、キス、サイマキエビ、と揚げたてをいただいていると、「メニューにはないんですが、ハマグリもございます」と声を掛けられ、「くださいっ!」と即答。天ぷらでは初のハマグリ。熱々ほっくりとした大振りの身を、半分は塩で、残りは天つゆとおろし大根で味わう。うぅ〜ん、どちらも旨い。春を味わう幸福。シメは“丸十(サツマイモ)”をデザート代わりに。美味しい春を堪能。

HotaruIkaSayoriを味わうべきもう一つの店は、「鮨いち伍」。カウンタ席に座った後は、店主にお任せ。最初に出てきたのは、北陸新幹線開業記念、富山湾のホタルイカ。3月1日に漁が解禁されたばかりの春の味。ビールをくいっと飲みつつ、酢醤油と生姜でさっぱりといただく。出だし良し、旨い。イカ、鯛の昆布ジメ、エンガワと白身から始まり、赤身、中トロ、大トロと続いた後は、春を告げる魚のひとつ、サヨリ。軽く煮切りを塗られ、おろし生姜を乗せた繊細な白身魚をパクリ。くぅ〜っ、旨い。日本人で良かったと唸る。飲む酒は、魚や江戸前鮨に合うようにと造られたという、石巻の「日高見」。復興応援のエールを送りつつ。ぐびり。口当たり良く、後味良く、確かに鮨に良く合う。

SabaHamaguriワシ、赤貝、アジ、エビ、鯖…青魚の間に絶妙に他のネタを挟みつつ、「どのタイミングでお出ししようかと、困ってたんですよ」と、煮ハマを握るご主人。実は、隣にいらした客がハマグリはないの?と尋ね、今日はないと答えていた。そうか、今日はハマグリはないのかと内心がっかりしていたところ。その3人連れの客がお帰りになったタイミングで出してくれた。グッジョブ!嬉しいね。「数が2つしかなくって、どきどきしました」煮ハマが好きなのに、置いてある店が少ないという話をしたのが、この店に通い始めた頃。しっかり覚えてもらっていた春の味。ありがたく頂戴する。ん、濃厚で上品なツメが鼻をくすぐる。口に含めば、ふくよかな味わい。旨い。

ニ、コハダ、アナゴ、そして卵焼きをデザート代わりにいただき、満たされた気持とお腹を抱えて店を出る。やはり、お気楽夫婦にとって、春の訪れを味わい楽しむには、天ぷらと鮨。「夏になったら鮎だし、岩牡蠣も良いね。秋にはやっぱりキノコに、栗に、サンマに…」どうやら春だけではないらしい。

2度あることは3度も、4度も。「生ガキのノロい」

Huitregeleeめて食べたのは19歳、学生時代。パリに短期留学していた頃。学校には(1日だけしか)行かず、美術館を巡り、街をぶらつき、カフェに、公園に、映画館に溜まっていた。そんなある日、パリで知り合った女子大生(日本人)と、一緒にブルターニュに牡蛎を食べに行こう!モンサンミッシェルへ行こう!ということになった。その旅の途中、サン-マロ(Saint-Malo)という港町で待望の生ガキとご対面。Les fruits de la Mer(海の幸の盛合せ)という大きな三段の銀皿に乗った新鮮な生ガキ、ムール貝、エビなどをたっぷりと堪能した。そして、翌朝。酷い吐き気、激しい下痢に襲われ、目的地には行けず、パリに強制送還。数日間寝込んだ。生モノ(笑)の食べ過ぎだろうと思った。

AspergeCoquille Saint-Jacques2度目は新宿の居酒屋。友人たちと一緒に生ガキをたっぷり食べ、ズブロッカをあおり、大騒ぎ。翌日、下痢と腹痛、嘔吐で会社を休んだ。飲み過ぎかなと思った。3度目は広島への出張。やっぱり広島に来たら生ガキでしょ!と、同僚と一緒に地元の名店で生ガキ三昧。翌日、帰りの新幹線の指定席はムダになり、ずっとトイレに籠り5時間の移動。そして2日間会社を休んで、ようやく気付いた。私は生ガキに当たるんだ、と。これは困った。貝殻の上で艶かしく横たわるミルク色の瑞々しい姿。ふふふ、愛いヤツよのぉ〜♡と言いながら、チュルッと一息でいただく。芳醇な海の香りと、濃厚な潮の実りを味わう。至福の時。そう、私は生ガキが大好きなのだ。

TroisBlanc4度目は、仕事を辞めた後と決めていた。NYCのオイスターバーにでも行って、思う存分生ガキを食べてやる!と妄想していた。3度の経験で、さすがに私も学習した。生がダメなら、焼き牡蛎、蒸し牡蛎は、どの程度火を通してあれば良いのか、実戦で経験し、克服して来た。その経緯を良く知る妻は、生に近い蒸し牡蛎を美味しそうに頬張り、翌日も元気な私に感心していた。そんなある日、甥の大学卒業をお祝いをしようと、馴染みのビストロに向かった。この季節のお約束のホワイトアスパラはホタテとサラダ仕立てに、私と甥の牡蛎は蒸して、妻は生で、どちらも美味しくいただいた。相変わらずの絶品オードブル盛合せも、ワカモノらしく甥の選んだステック&フリットも。

SteakSusumu4度めは、その翌日唐突にやって来た。いつも通りに朝食を取り、妻のサラダランチ弁当を作り、トイレに入った時に異変は起こった。…止まらない。そして腹痛。さらに遠いところで吐き気。あぁ、久しぶりのこの不快な組合せ、違和感トリオは牡蛎だなと直感した。けれども昨夜の牡蛎は火を通していたはず。妻にそう告げると「あぁ、やっぱり。昨日、このジュレ大丈夫かなぁって思ったんだよね」と事も無げに宣う。ん?そう言えば、昨夜の牡蛎の上に美味しそうに、それもたっぷり乗っていたのは、“生”牡蛎のエキスをジュレしたもの。やられた!それにしても、なぜその時に言わずに、今言うかなぁ〜。もちろん、生ガキを食べた妻はぴんぴん元気。

期休暇ならぬ、その日は牡蛎休暇。引退後に取っておいたはずの4度目の生ガキが、思いがけず早めにやって来てしまった。何度も何度もトイレに通う。何も食べることができず、水分だけを補給する。辛い。けれども、本体には火を通してあり、生はジュレだけだったこともあり、これまでの中では最も軽症。夜には僅かに食欲も回復した。ところで、4度も私を苦しめた“生牡蛎に当たる”というのは、どういうことなのだろうと、初めて調べてみた。すると、原因はノロウイルスらしい。海中のノロを吸収し溜め込む傾向にある貝類の中で、生のまま食すことが多い牡蛎が、“当たる”ということらしい。そして、同じ様に摂取しても(妻のように)発症しないこともあるらしい。(そう言えば、大勢で食べに行った中華料理屋のシジミの紹興酒漬けで、ほぼ全員が食当たりしたことがあったと思い出した。あれもノロだったのかと気付き、納得。今さら遅いけど)恐るべし、生ガキのノロい。

サクッと一杯♬ガッツリいっぱい?「四十八漁場」

SeafoodOtoushiカッシュコートで一緒に汗を流した後、ちょっと一杯行く?と彼女に声を掛けた。「行きたい!行きます!すぐシャワー浴びてきます!」と即答の肉部メンバーの奥さま。ロングヘアの彼女はシャワーの後のブロウに時間がかかるという心配で、あっと言う間にコートサイドから消えた。顔を見合わせクスッと笑い合い、愛すべきキャラクターの酒まみれ(あ、もとい酒好き)奥さまを見送る。ショートで時間がかからない上に、シャワーの後にはローションだけの妻は余裕の表情。じっくりストレッチをやって、シャワーを浴び、それでも妻がバッカス(あ、ワイン好きの)奥さまを逆転してロッカールームから先に現れた。その後「ごめんなさぁ〜い」と吞んべい奥さま登場。

ShichimiBeerこに行きましょうか」と尋ねられ、ちょっと気になる店があり、その店に行ってみようと駅前に向かう。「四十八漁場(よんぱちぎょじょう)」という「ガイアの夜明け」や「がっちりマンデー」などで紹介されていたチェーン店。全国各地の漁場から、その日の朝に獲れた魚を空輸で都心まで運び、その日の夕方には店に入荷するという鮮魚に拘った店。店に入ると満席。スタッフが店内を忙しそうに動き回り、活気に満ちた人気店の佇まい。入口で少し待ち、席に付く。「この店は初めてでらっしゃいますか。失礼ですけど、何かご覧になってのご来店ですか」ガイアの夜明けで視たと伝えると、ありがとうございます!と元気な返事。データ収集がしっかりしている気配。

GomaSawaraYakimiso物のオーダーが済むと、魚や貝類を乗せた大きなバットを抱えたスタッフが登場し、淀みなく魚の説明を始める。おススメの調理法を聞きながらも、お気楽妻の視線は巨大なサザエに集中。「つぼ焼きで食べよう!」とさっそくオーダー。店側の効果的なプレゼンテーションと演出に乗せられた格好。やるなぁ。「あぁ、ここって塚田農場の系列なんですね」と吞んべい奥さま。さっそくスマホで調べてみると、当たり。しっかりとしたマーケティングに基づき、はっきりとしたコンセプトで客にアピールし、料理はきちんと美味しい。さすが塚田系だ。お通しはキビナゴをコンロで自分たちで炙る。これまた楽しい演出。添えられた「こがし七味」も黒七味に似て、香ばしく美味。

TsugikiriTomochan身も美味しいですよぉ」と、既にビールのお代わりを済ませた吞んべい奥さま。蔓籠の上にたっぷの氷、その上に盛り付けられた刺身。確かに見た目が実に美味しそうだし、実際に食べて美味しい。きときと。ゴマだれを付けたワラサも絶品。「焼き味噌に野菜の組合せも良い感じだね」と野菜好きの妻。やるなぁ、よんぱち。と、そこに遅れて登場した吞んべいダンナが登場。再度の乾杯。飲むにつけ饒舌になる吞んべい夫婦。片や帰国子女であり、さらには海外赴任の長かった2人。世界各国のホテルにも詳しく、共通項も多い。ホテル好きのお気楽妻が思わず身を乗り出す話題になり、いつになく本気でラグジュアリーホテルの魅力を語り出す。なんだか楽しいぞ!とお代わり。

クッと行く予定が、ガッツリになっちゃいましたねぇ。楽しかったです。またよろしくお願いします!」と帰宅後に吞んべい奥さまからメール。いやいや、それは想定内。誰が吞んべいご夫妻とご一緒して、さっくり帰れると思いますか。「行こうかって言って、さっと行けるのも良いよね」妻もご機嫌の模様。塚田農場系の店らしく、係長の名刺をいただいたことでもあるし、課長に昇進できるようにまたご一緒しようか。

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