妻の誕生日、結婚記念日、さすがに自分の誕生日は覚えているが、記念日は、忘れるものだ。ところが、今はFacebookという強い味方がいる。お節介にも、Facebookで繋がっている友人たちの誕生日を毎日知らせてくれるし、「思い出」と称して、何年前の今日、あなたはこんなことをしていましたよ!と毎日教えてくれる。他人にとってはどうでも良い事でも、自分のことだと、あぁ、そうだったとしばし想いに耽る。
実は(大きな声では言えないが)、今年の結婚記念日を当日まで失念していた。数日前まではっきりと覚えていたのに、どんな予定にしようかと妻と話をしていたのに、飛んだ。すっかり忘れ、週末のスカッシュの筋肉痛が酷いからトレーナーの所に行こうか…とまで言っていた。そして当日の朝、お告げがあった。神よ!ザッカーバーグよ!感謝します。そして、さもずっと覚えていたかのように、当日の作戦を練ったのだった。
選択肢は3つ。結婚パーティを20年前に開催した「パークハイアット 東京」、同じ日が開店記念日という「ビストロ トロワキャール」、そして「神泉 遠藤利三郎商店」だ。パークとトロワは行ったばかりだし、ご無沙汰の遠藤にしようかと店に連絡すると、いつものカウンタ席が空いているという。すかさず妻に確認し、予約。さて、後はお気楽妻へのプレゼントだ。何にしようか。残された時間は少なく迷っている時間はない。
調べると、結婚20周年は磁器婚というらしい。磁器とはハードルが高いお題だ。カップではないし、磁気ネックレスは磁器違いだし…。ん?ネックレス?磁器のペンダントトップはどうだろう?ロイコペやら、ウェッジウッドならありそうだ!と閃いた。とは言え、妻との約束の時間までは1時間。店の場所からほど近い、東急本店に出向く。宝飾の売場に近寄ると、お手伝いをとか、お探し物は?と、ワサワサ販売員が寄ってくる。
結局、磁器のアクセサリーはなく、食器売場に向かった所、「Herend」というハンガリーの磁器ブランドの売場に光が差していた。遠目でも可愛い磁器の動物やら人形やらが飾られ、そのショーケースのひとつにペンダントトップが並んでいた。ここからは決断が早いと評判の私の本領発揮。妻の干支のウサギを発見し、チョーカーなどいくつかの組合せからチョイス。これだ!ラッピングも美しく、我ながらグッチョイス♬
精算を済ますとちょうど閉店時間。奇跡的な逆転で、薄氷の勝利。そのまま歩いて神泉へ。約束の時間より早めに店に到着し、店長の斎藤さんと相互に近況報告しつつ、オススメのスパークリングをいただく。そして遅れて到着した妻と同居して27年、入籍して20年目の乾杯。あっという間の27年、そしてお気楽な20年の結婚生活だった。そして、今日のために考えてたよという顔でサラッとプレゼントを渡す。
店長の斎藤さんの選ぶ何杯目かのワインをいただきながら、持ち帰りのワインの相談。前回、自粛期間明け早々に訪れた際に、期間限定の種類販売免許を申請し、ワインを販売していると聞き、何本か購入して持ち帰ったのだ。店内で飲むだけでは“飲んで応援”も限界がある。ささやかなながら、その日も選んでもらうワインを持ち帰ろうという算段。自分たちのお気に入りの店が、これからも続いて欲しいからこその応援だ。
そして、このワインはお気楽妻から私へのプレゼントが(予想通りに)ない代わりに、自分へのプレゼントでもある。そして、妻から私への目に見えないプレゼントは、自分では飲まないのに、27年以上もの間、嬉々として一緒に“飲みに”行ってくれることだ。思えば、こんな2人の関係は30年近く変わらない。これからも、きっと。願わくば、ずっと。「ん、良いよ」と、お気楽妻の返事は、相変わらずお気楽。きっと、ずっと。
お気楽妻が誕生日を迎え、友人や家族、航空会社などから「Happy Birthday」とメッセージが届いた。昔は自分の誕生日を覚えていてくれるのは、家族とごく限られた友人だけだった。それが今は「Facebook」がお節介にも友人たちの誕生日を知らせてくれるし、会員申込の際に書いた誕生日を基に各社がバースデーカードを送ってくる。煩わしくもあるが、誰かと繋がっていることを感じるのは、やはり嬉しいことだ。
今夏、コロナ騒動以降久しぶりに訪れた馴染みの店「用賀 本城」で、店主の本城さんが還暦を迎えることを知った。それもお気楽妻と1日違いの誕生日。では大将のお祝いに店に伺おうと席を予約。妻にとっては前夜祭の訪問となった。還暦おめでとうございます!と挨拶し、まずはビールとお願いすると、「ちょっと待ってください」と制され、まずはこれをとオリジナルラベルのシャンパンのご相伴に預かる。めでたく旨い。
遅れて到着した妻が席に着き、心ばかりの還暦のお祝いの品をお渡しすると、今度は「誕生日おめでとうございます」と花束をいただく。そして57歳と60歳の記念撮影。やはり誰かを祝い、誰かに祝ってもらうことは素直に嬉しいことだ。満面の笑みの妻と本城さん。2人とも良い笑顔だ。妻にもいただいた本城ラベルのシャンパンで乾杯した後は、さっそく秋の料理をいただく。ここは日本の四季を舌で味わう店だ。
秋の皿は、日本に生まれてホントに良かったと思える料理が並ぶ。この店で初めて味わった金糸瓜(そうめんカボチャ)はすっかり舌に馴染んだ好物。カリカリの穴子と一緒にいただく。蓮根と栗の餡掛け、生ウニやマグロなどの刺身盛りなど、少量ずつ盛り沢山の料理が嬉しい。お気楽妻は、本城さんと出会った「たん熊北店」時代から、彼の料理は食べると楽しくなり、嬉しくなり、幸福になると断言する。迷うことなく合意。
還暦を迎えた本城さんは、京料理の名店「たん熊北店」で修行後、パリの日本大使館の公邸料理人という華麗な経歴の持主。帰国後に「たん熊北店二子玉川店」の店長を務めていた頃に本城さんの料理に出会い、その絶品京料理と本城さんの飾らず偉ぶらない人柄に魅せられたお気楽夫婦。本城さんが独立し「用賀 本城」を開店した後も、季節毎に訪れている。初訪問から15年、店に伺った回数は優に50回は超えるだろう。
片や、57歳になったお気楽妻。定年まで後3年のカウントダウン。「とっくに仕事辞めて、毎日ジムに通ってるはずだったんだけどなぁ」と言いながら、毎年春に訪れる超重労働の日々を乗り越えて来たタフな女性だ。2年前に還暦を超えた私には「働けるだけ働いたら?」とアドバイスしつつ、「私は定年で辞めて、世田谷マダムになるんだ」と断言。今でも世田谷に住むマダムだと思うのだが、どうやら彼女の定義は違うらしい。
ところで、本城さんへのお祝いを何にしようかと、還暦の赤、サムシングレッド、パリ在住だった本城夫妻…と、連想した時に閃いた。エディアールの赤と黒のストライプ柄だ!ということで、新宿の伊勢丹へ。すると、紅と白の缶に入った紅茶のセットが店頭にあり、これだ!と即決。女将さんの前でその包みをお渡しすると、「あぁ、懐かしい。嬉しいですわぁ」と店のあるマドレーヌ広場の話題で盛上がる。グッチョイス♬
そして、妻へのプレゼントはフェラガモの財布。先代のフェラガモの財布は20年ほど使ったお気に入りだったのだが、さすがに留め金が緩くなったとのことで、世代交代。ホテルや食事など、消え物には積極的に消費するけれど、いわゆるブランド物のバッグや靴には余り興味を示さないお気楽妻。ありがたいことだ(笑)。ジュエリーも余り欲しがらない。もしかしたら彼女は“世田谷マダム”にはなれないのかもしれない。
「そんなことないよ!」と言うお気楽妻に、ではヴァンクリ欲しい?と聞くと、要らないと答え「でも、ハイアット は今年中に後何泊かするよ!」と続く。きっと還暦の本城さんも、お気楽妻も、枯れずに、華麗に、年齢を重ねているのだろう。華麗に加齢、そんな2人を祝った夜だった。
ハイアットが日本国内で攻めに転じている。2017年頃には日本全国で10ヶ所余りだったのに、2018年以降圧倒的なスピードで新規ホテルを開業しているのだ。2018年に「ハイアット セントリック銀座 東京」「ハイアット リージェンシー瀬良垣アイランド沖縄」「ハイアット ハウスニセコ」、2019年に「パークハイアット京都」「ハイアット プレイス東京ベイ」など日本初のブランドを含め相次いで新規オープンさせた。
今年に入ってからも、「ハイアット プレイス金沢」「パークハイアット ニセコ HANAZONO」等、その勢いは止まらない。そこで、海外に出られないハイアット好きのお気楽夫婦は、2020年を国内のハイアットホテルズを攻めまくる年(笑)と位置付けた。そしてグランドハイアット 、パークハイアット に続き、2人が攻めたホテルは、今年5月に開業したばかりのカジュアルホテル「ハイアット リージェンシー横浜」だ。
実はこのホテルには7月に「お試し」として1泊、ホテルジャンキーの妻に合格点をもらい、9月に再訪したのだった。最寄駅の「日本大通り」から徒歩3分、山下公園にも近く、中華街にも歩いて行ける絶好のロケーションだ。7月の宿泊では、ハイアットのポイントでアップグレードして「リージェンシースイート」に宿泊し、間取りは気に入ったもののビューが今ひとつだったため、9月は「ベイビュースイート」を予約。
「今回の眺めはいいね」山下公園を見下ろし、遠くベイブリッジを望む眺望に満足の妻。ウォークスルーのレイアウト、ツインボウルの洗面台、その間に配されたガラスの壁越しに外光が入ったり、バスルームとベッドルームの間の壁も磨りガラスで採光するなど、細やかな設計が妻のお気に入り。1階のラウンジで過ごすカクテルタイムもどうやら高評価のようで、すっかりご満悦の様子だ。「じゃあ、食べに行こうか♬」
夕刻に出かけたのは横浜中華街。香港に行けない代わりに横浜で美味しい中華料理を味わいたいと、横浜在住の友人夫妻をお誘いし、上海料理の名店「状元楼本店」を予約したのだ。「お久しぶり〜!横浜にようこそ♬」愛犬がいることもあり、友人夫妻はなかなか2人で都内に出かけることができず、こちらから近くまで出向くと会うことができるのだ。「何食べようか!」「中華マスターにお任せ!」と妻に選択を委ねる。
ではと、妻が選んだのは「状元楼特選6種前菜盛合せ」という堅実な看板メニュー。焼物も食べたいし、干豆腐も良いなぁと迷った時はこれ。「どれも美味しい♬ビールがススムね」と友人(夫)も満面の笑みでビールのお代わり。彼らのNYC駐在の頃から一緒に暮らす愛犬の話、友人(夫)の学生時代から馴染みの横浜ウンチク話、気の置けない友人との会話が最良のソース。美味しい料理が三倍増しになり、次はワインをボトルで!
上海料理の店ということで続いてオーダーしたのは小籠包、特に私のオススメの柚子胡椒小籠包は全員が「これは絶品だねぇ」「ホント美味しい」と絶賛。濃厚なスープと酸味のある爽やかな辛さの柚子胡椒が絶妙なハーモニーを奏でる。つい先日「状元楼自由ヶ丘店」で食べたその逸品が忘れられず、本店で妻や友人たちにも食べて欲しかった味だった。まるで自分の店の料理を誉められたように嬉しく誇らしい。
と言うのも、この「状元楼」は仕事上でお付き合いがあり、プライベートでも良く利用する馴染みの店。すると「やっぱりIGAさんでしたかぁ。予約の名前を確認しちゃいました」と支配人のB藤さんから声を掛けられる。自由ヶ丘店、本店と支配人を歴任する彼から「一緒に写真をお撮りしましょう」と言われ、全員でポーズ。黒酢酢豚も、上海焼きそばも、蟹肉入りレタス炒飯もとオススメされてオーダー。どれも満足の味。
「いやぁ、おいしかったぁ!」とブラブラ歩きながらあっという間にホテルに到着。いつものように客室での友人とのミニ宴会。冷やしてあったスパークリングワインで改めて乾杯。友人たちとこんな時間を過ごすために、ゆったりとした客室に泊まる2人。「やっぱり近くて良いなぁ。またすぐ横浜に来てね」と友人(妻)。「うん、すぐ来る!」とお気楽妻。どちらも本気だ。お気軽ホテルと中華街、どうやら定番になりそうだ。