オトナのカウンタに魅せられて「用賀 本城」

TsukidashiDengaku分の財布で初めてきちんとした食事をしたのは30年以上前のことだった。クリスマスのホテルニューオータニ。女の子1人と男友だちと3人での奇妙なデート。レストランに入ってみるとクリスマス特別コースメニューだけという強気の設定。予想外の事態。けれど今さら後には引けない。学生がクレジットカードを持っている時代でもなく、友人との持ち金を全部合わせても足りるかどうか。心配で食事の味もさっぱり分からなかったはずなのに、初めて飲んだヴィシソワーズの美味しさだけは実にはっきり覚えている。(でも、クリスマスの時期に冷たいスープはあったのか?)結局、2人でご馳走しようという目的は棚上げ。その日のお勘定は、女の子の財布まですっかり空にした。オトナになりたかったワカゾーの、甘いような、苦いような、そんな記憶。

Sakura寿司屋のカウンタに座っても、天ぷら屋の揚げ場に向っても、レストランでソムリエに好みのワインを尋ねられても、心穏やかに食事ができるようになったのはいつ頃だったか。美味しく食べるには、まず楽しむことだと肩の力が抜けるようになったのは何歳ぐらいだったのか。年齢を重ねることは悪くない。けれど、経験を重ねることは慣れることではなく、幅や奥行きを知ること。「美味しい」や「楽しい」の種類は無数にあり、人それぞれの美味しさや楽しさがある。料理の味だけではなく、スタッフの接客、店の雰囲気、料金、そして誰と一緒に食事をするか、いろいろな要素で味も楽しさも変わる。その組合せがぴったりと合う店に出会うことがある。だからこそ、気の置けない仲間と行きたい店がある。そして、座りたい場所がある。

TakoTakenokoクラも散ってしまった頃、季節を味わうために「用賀 本城」に伺った。季節毎に訪れる、お気楽夫婦にとって大切な場所。3人のスカッシュ仲間と一緒に座るのは、もちろんカウンタ席。店主の本城さんの料理の全てを味わうにはカウンタ席に限る。本城さんは劇場主で、興行主、脚本家であり、演出家で役者。店という劇場を設え、カウンタテーブルなどの大道具、食器や酒器などの小道具を揃え、客を迎え、昼夜興行を打つ。本城さんが季節の食材を扱い、捌き、焼き、揚げ、味付け、盛り付ける舞台を楽しむことができる客席がカウンタ。その上、観客は季節の美味を味わえるだけでなく、興行主との会話を楽しむことができる。こんな贅沢な公演は他にない。

Mrに鮮やかな朱色の盆に盛られた3種の田楽。新緑色の葉形をした皿に盛り付けられているのは、淡いピンクの鯛の子、薄緑色の蕗、そして散ってしまったはずのサクラ。ガラスの器にはジュレと共に蛸と菜の花。京都の筍は笹と一緒に炙って山椒が添えられる。本城劇場には季節毎に粒ぞろいの美味しい役者が揃っている。脚本も、演出も見事だ。その日も舌だけではなく、目にも美味しい季節の味を楽しんだ。そして、媚びず、気取らず、観客との絶妙な距離感を保つ役者の佇まいを味わった。そして、観客を緊張させることのない、劇場主のこの柔らかな笑顔。さらには年に数回なら財布にも優しい料金。あぁ、オトナになって良かったと満足する時間と空間。

いど、おおきにぃ」劇場主と助演の奥さまにお見送りしていただく。その日も最後の客になってしまった。いつもながらの長居は無粋、食事をしながら写真を撮るなど論外。決してオトナの客などではない。けれど、楽しいのだ。嬉しいのだ。こうして共に季節を味わえる友がいる。「酔っぱらっても連れて帰ってもらえるしね」そう、そんな妻もいる。次は初夏を味わいに。

■食いしん坊夫婦の御用達 「用賀 本城」*お店の基本情報、これまでの訪問記

オトナの〜に騙されて!「代官山T-SITE」

Tsutaya1Tsutaya2トナの〜」という惹句に騙されて、ノコノコと出かけて行くようでは決して「オトナ」とは言えない。けれど、この場所には騙されたと思って行ってみて欲しい。2011年12月にOPENした「代官山T-SITE」。まさしく「オトナの〜」とい手垢が付いた表現の本来の意味を取り戻してくれた施設だ。T-SITEの「T」は、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の運営する「TSUTAYA」のTであり、TポイントカードのT。そして、CCCが30年前に創業した時の店舗名「蔦屋書店」のTでもある。ちなみに、この施設の核となるTSUTAYAは、「代官山蔦屋書店」を名乗る。創業者の増田宗昭氏の『代官山オトナTSUTAYA計画』という著書に、このプロジェクトの描く志と夢が語られているという。その増田氏が創業時に目指した「本、映画、音楽を通してライフスタイルを提案すること」を実現した舞台。

CD1CD2山手通り沿いに広がる4,000坪の敷地に足を踏み入れると、オトナの夢の国の入口に相応しい洗練されたデザインの建築物と大きな木々が迎えてくれる。一瞬にして非日常の世界に紛れ込もうとしているというワクワク感が溢れる。3棟からなる蔦屋書店、カフェバーダイニング「IVY PLACE」などの施設がゆとりを持って配されている。蔦屋書店のファサードは「T」が連なる印象的なデザイン。リゾナーレ小淵沢などを手がけたクライン・ダイサム・アーキテクツが建築を担当。余りの高揚感に浮き足立つように店に入ると、これまた思わず笑顔になる。何、これ!やってくれるじゃない!という仕掛けがたっぷり。本は各棟の1階。3棟を繋ぐ各エントランスには大量の雑誌が並ぶマガジンストリート。書籍たちは「旅」「料理」などのテーマ別に小さな部屋で客を待ち受け、併設されたスターバックスのカフェを飲みながら本を選ぶことができる。

TsutayaNight1TsutayaNight2楽のコーナーは3号館の2階。ジャズ、クラシックなどの大ジャンル別に並べられているだけではなく、「プログレッシブロック」「不良ロック」などという挑戦的なコーナーがあったりする。不良ロックコーナーにには、頭脳警察、PANTA & HALなど、かつて私が愛したグループも並ぶ。窓際にはコーヒーを飲みながら試聴できるコーナーがある。マッキントッシュのオーディオセットから心地良い音楽が流れている。ん〜、完全にやられた!という感じ。そしてだめ押しは、2号館の2階にあるラウンジ「Anjin」。落とし気味の照明、ゆったりとしたソファ席とカウンタ席。周囲には「平凡パンチ」「太陽」など雑誌のバックナンバーが並ぶ。そこでお酒を飲みながら、食事をしながら、ライブラリーの雑誌や館内の本を読める。そこに座っているだけで、僕ってオトナ!という自己満足に浸り、疑似オトナになった雰囲気を味わえる空間。

SaladePotateめて訪問した冬の日、高揚感を抱えたまま帰宅し、興奮を熱く語った。そしてサクラの頃、妻を誘って再訪。妻もぐっと来た様子。各フロアに大量に備えられたiPadを使って、興味深そうに店内情報の検索をしている。「隅々まで実に良くできてるねぇ」と好感触の発言。よっしゃぁ〜っ!また来れるぞと、心の中で小さくガッツポーズ。そしてさらに数日後、T-SITEのシンボルツリーである大きなケヤキの下に佇む「IVY PLACE」に食事に出かけた。今やすっかりT-SITEフリークの趣。カフェ、バー、ダイニングの3つのコーナーを持つ山荘風の外観の落着いた店内は満席。しばし待ってカフェのカウンタ席に案内される。この店は天王洲アイルの「T.Y.ハーバー ブルワリー」の姉妹店。3種類あるオリジナルの生ビールが旨い。内装は開店間もないのに何年も歴史を重ねたような趣。落ち着ける和みの空間だ。良い店だ。

功した企業の創業者の夢を実現するプロジェクト。けれど押し付けがましいところがない。知的好奇心を刺激するオトナのための夢の空間、オトナのディズニーランド。こんな施設を保持し続けるのは経営的には大変かもしれないが、継続して欲しい。大袈裟に言えば、日本の文化が成熟し、オトナの社会になっていくために必要なスペースだ。大切な財産だ。「また来ようね。代官山には美味しいパン屋も多いし」と妻。美味しいパンも、また大切な文化なり。

“5”を待ちきれず「iPhone4S」

iPhoneータイが元々好きではなかった。どこにいても連絡がついてしまうのが嫌だった。前職でも業務上持つように言われても拒み続けた。けれど、関わったあるプロジェクトのためにケータイを持たざるを得なくなった。それが2004年。かなり遅い導入。嫌いだと言い続けていた私がようやく携帯電話を持ったと周囲が驚いた。キャリアはそのプロジェクトの関係でDoCoMoしか選択の余地がなかった。そして転職先もNTTコムということで、2代目のケータイもDoCoMoだった。ケータイを2代目に買い換えた年、iMacがわが家にやって来ていた。当時発売されたばかりのiPhoneを選びたかったけれど、残念ながら選択の余地はなかった。

MacLarge&Small年、Mac Book Airもわが家にやってきた。自宅用と外出用のMac2台体制の時代に入った。ちなみに、妻は東京デジタルフォンの時代からケータイを持ち始め、Vodafoneを経てとっくにiPhoneを使い始めている。それも、なぜかVodafoneのアドレスを使い続けながら。こうして着々と外堀は埋められていた。NTT城に籠る私の携帯電話も生命の限界が近づいていた。ガラケーと蔑むように呼ばれ、国内メーカーのシェアが下がり、SMAPはNTTからSoftBankにCM出演を乗り換えた。今年発売される携帯電話のほとんどはスマートフォンだというニュースが流れる。退路も断たれた。籠城生活もこれまでか。

は言え、スマートフォンを拒んでいた訳ではない。むしろ欲しいのだ。スマホは携帯電話ではなく持ち歩くパソコン。ついでに通話もできるデバイス。だからこそ、それもMacユーザとしてはiPhoneを一刻も早く使いたいのだ。妻が持つiPhoneを横目で眺めながら、羨ましそうな目をしていないか自分の視線を確かめる。うっ!欲しい!そんな気持を抑えながら、外出先で路線検索やMAPの検索を妻に頼む。悔しい。全くもって不本意だ。けれどキャリアは変えたくない。仕事で使うことも多いアドレスが変わるのが嫌だし、困るから。決してNTTグループに義理立てしている訳ではない。

Papa秋にDoCoMoがiPhoneを導入!というニュースが流れて喜んだのも束の間。すぐにDoCoMoから否定の公式コメントが流れ、落胆。残念。待っていたのだ。DoCoMoのiPhone導入を、それもiPhone5を。私の携帯は日々老いて行く。購入当時の機能が陳腐化し、必要のない機能だけが空しく表示される。同報メールの宛先は5件だけしか選択できず、パソコンから送ろうとすると拒否されるケータイがあり、共通の友人たちへの連絡は妻に頼む。無念。ダメだ、もう待てない。SoftBankショップに走った。お父さん犬が優しく迎えてくれた。アドレス帳の移行も無事に済んだ。MMSとメールの使い分け方を妻に教わった。分厚いマニュアルはない。使って慣れてくれ!というスタンスはMacで経験済みだし、iPhone独特の用語も慣れてきた。

のカップはウチでは要らないなぁ」ファンシー系なデザインに全く興味を示さない妻。お父さん犬マグカップの運命やいかに!

002317196

SINCE 1.May 2005