誕生日に何が欲しいかと妻に問われ、考えてみた。広尾駅から徒歩2分のマンションが売りに出ていたなぁ。第二期販売が始まった恵比寿駅から5分の新築マンションも魅力的だ。今の住まいを買い換えるつもりもないのに、そんなモノが浮かぶ。実は私は物件情報収集が趣味なのだ。欲しいかと言われれば、欲しい。けれども今自分に何を問われているのかは、さすがに60年以上生きていれば理解できるので、脳内に留めた。
妻に問われた場所がパークハイアットのペストリーブティックの前だったから、瞬時に発想を切り替え、目の前のショーケースの中で輝いていたマロングラッセが欲しいと伝えた。その場しのぎではなく、実はかなりマロングラッセが好きなのだ。その上、パッケージが荒井由実の『14番目の月』のジャケ写のようで魅力的。「え?これで良いの?」と訝しむ妻。けれども、その心遣いだけで嬉しいと、心から喜んだ私だった。
ヴァレンタインディナーに寿司はどう?と妻にメッセージを送ると、「いち伍、良いねぇ」と返信があった。お気楽夫婦にとっては、寿司=「鮨いち伍」、すなわち他の店では鮨を食べない、という明確なルールがあるのだ。さっそく電話をすると、当日にも関わらず、何とか予約ができた。困った(嬉しい)ことに、以前は知る人ぞ知る店だったのに、最近は日によっては予約が取れないこともある、すっかり人気の店なのだ。
「お待たせしてすいません。これ食べてもうちょっと待っててください」忙しそうに立ち働く大将からそう言われて出てきたのは、私の大好物のカラスミ!待ちます待ちます。こりゃあ日本酒だ。鼈甲色に輝く粒々を、少しづつ大切に食べなから、キリッと冷えた酒をグビリ。んまい。「あれっ!もう無くなっちゃうじゃないですか!速いですよ」そう言われても、ちびりグビリは止まらないから仕方ない。ん、んまい。
「お待たせしました」付け台に飾り包丁の付いたイカが乗せられる。その日は2組の予約客向けのコース料理の前菜に手が掛かっていた模様。何枚もの小皿に美しく料理が盛り付けられていた。「ヴァージョンアップしたんです」と大将。少食のお気楽夫婦は、ずっと縁がないメニュー。2人はいつもの通り、お任せの握り。鯛の昆布締め、サヨリと好みの白身魚のネタが続き、マグロ、コハダと絶妙な組合せで絶品鮨が供される。
その日の逸品はシラウオ。突き出しのシラウオの卵豆腐で、その予兆は感じていた。けれど、こんな姿で出て来ようとは!シラウオの握りの上に、エスプーマ!寿司屋で、それも地元の店で、まさかこんな!と2人は驚き、大将は照れる。「ウチも今年で10周年なんですよ」ほぉ、もう10年かとも思うし、もっと長くお付き合いしているような気もする。「最初の頃は、ホントIGAさんのブログで助かりました」てへ、テレるぜ。
「Gift」には、贈り物や贈与という意味以外に、“天”が与えた才能という意味がある。誰かに何かを贈ろうとする時に、相手のことを思い浮かべる。あれこれと、相手が好きなもの、喜んでもらえることを想像する。それが自然にできる人も、選ぶ楽しさを味わえる人も、どちらもプレゼントの才能がある人だ。大将に何かを贈ったつもりはなく、却って嬉しいメッセージを受け取った。受け取り上手もきっと才能だ。そうありたい。
「今年もいっぱい頂いたねぇ」2月は妻の喜ぶ季節だ。その妻から、スカッシュ仲間から、会社の部下たちから、宝くじ売り場のおばちゃんから、ヴァレンタイン・ギフトをいただいた。贈っていただくこと自体の嬉しさ満載。大半は妻が消費するにしても、倍返しを期待されたものだとしても、甘く嬉しい頂き物だ♬
*GIFTは「もうけもの」という意味もある。頂けるだけでもうけもの♬
「Age Ain’t Nothing but a Number」年齢はただの数字よ!と、R&Bの歌姫アリーヤが歌ったのは1994年。彼女はまだ“わずか”15歳だった。そして2001年、飛行機事故により“わずか”22歳の若さで亡くなってしまう。「年齢はただの数字、記号さ」と嘯く、年齢を重ねた男女が使う言葉とは逆の意味。15歳は子供じゃないわと彼女は歌った。この曲は、山田詠美のエッセイで知ったのだが、詠美のエッセイではこう続く。
年齢を単なる数字、などと強がるのは、もう止めましょう。意味のある数字と受け入れる方が、人生はるかに楽しいよ、と。ん〜、どっちも違って、どちらも合っていると“61歳”の私は思う。世の中の多くの日本人には定年もあるし、元気だと思っていても確実に老いもする。年齢を数字だとばかりは言っていられない。けれども、年齢を気にして、自分を制限する必要もない。その意味では、年齢は単なる数字に過ぎない。
「誕生日おめでとう♬」ありがとう&おめでとう!と一緒にお祝いをしようと同行した2月生まれの友人に返す。場所は、前年に私の還暦と、妻との25周年を祝ったホテルのバーだ。事前にお世話になった宴会のご担当に挨拶に伺い、友人たちと記念撮影をした場所で自撮りをした後で、友人と落ち合った。「このピッツアむちゃ美味しいね。やっぱりこのホテル良いわぁ」と笑顔。ひと回り年齢の違う彼女は、大切な友人だ。
年上の方に敬意は払うけれど、年齢の違いが儒教的な上下関係になるのは違和感がある。逆も然り。年上だからと、敬語ばかり使われる相手との距離感はなかなか縮まらない。ビールの後は、シャンパンにする?「おっ、良いね。飲もうか♬」私をIGA-IGAと呼ぶ友人が応える。そうか。タメ口ができるかどうは、年齢や親しさを測るだけではなく、彼女のようにキャラ勝ちの要素はあるな。*IGA-IGAと呼ぶ女性を数えたら、現在7人いた!
4年後に、お気楽妻の還暦パーティもここでやろうか!と、冗談とも本気とも聞こえるように言うと、「良いねえ」と友人は答え、妻は「きっとそんなに大勢集まらないよ」と戸惑いながら、それでも満更でもなさそうに返す。2人一緒の写真を撮るよと言うと、「恵方巻き!」と言いながら、2人揃って同じ方向を向いてピッツアを咥える。こんな時は(うっかり)友人の子供のようなテンションに(嬉しそうに)釣られる妻。
「Happy Birthday to You ♬」ピアノトリオの演奏に合わせ、ヴォーカルの女性が歌い始めた。へぇ。私以外にも誕生日の人がいるのか、と思っていたら、キャンドル付きのプレートが我々の席に向かってやって来た。え?え?店内にいる全員の視線が集まる。わ・た・し?どうやらそうらしい。そう言えば、直前にスタッフが執拗にデザートを勧めるから、数種類の中から一つだけ頼んだのに、何と全部盛りだ!サプライズ!
「N田さんの手配だね♬」お気楽妻が動揺した私を愉快そうに眺めながら呟く。そうか、確かにちょうど1年前のパーティでお世話になってと言う会話があった。昨年の巨大なイチゴのケーキサプライズに続き、2年続けてしてやられたぜ。「すごい!初めて!こんなの!」友人は興奮を隠せない様子、どころか「次のステージでもう一回お願いしようよ」と宣う。え?本気?止める間もなく、女性スタッフに無謀なリクエスト。え?
15分後、何事もなかったかのように、「Happy Birthday to You」が繰り返され、さすがに今度は小さなアイスにキャンドルを付けて、スタッフが登場した。素晴らしい。ホテルのスタッフも、度胸があるだけではなく徹底的に楽しもうという友人も。ちょっと恥ずかしいと思ってしまった自分が恥ずかしい。爆笑。節度や品位を保てば、もうオトナなんだからとか、まだ子供だからとか、年齢と同様にそんな概念も関係ないのだ。
「楽しかったぁ♬ありがとう!」と友人が微笑む。こちらこそ。文字通りお腹を抱えて笑った。実に楽しかった。61歳の誕生日も、記憶に残る夜になった。年齢はやはりただの数字だ。けれども、その数字が増える毎に、妻や友人たちとこんな愉しみを味わえたら良いなぁ。友人とお気楽妻と、そして何よりも愛するホテル(パークハイアット東京)と、スタッフの皆さんに感謝!
丸の内に余り縁のない半生を過ごして来た。通勤したこともなく、馴染みの店もない。せいぜいが○菱地所の皆さんと「大丸有」のエコポイントプロジェクトでご一緒したくらい。*あぁ、そうか。10年ほど前のその仕事では何ヶ月か日参したけれど、記憶から消えていた。決して黒歴史ではないのだが。地所と言えば、大手町、丸の内、有楽町の大家さん。その頭文字を取って、「大丸有」と名付け、エリアマネジメントを行なっているのだ。
地所が丸の内に日本初のオフィスビル「三菱一号館」を建設したのが1894年。1968年に解体され、2010年にレプリカ復元(決して歴史的建造物ではない)され、「三菱一号館美術館」として開館。そこで開催中の『フィリップス・コレクション展』を鑑賞。“全員巨匠”というキャッチ通りの美術展。遠目で、あ!マティスだ、ゴッホだ、ユトリロだ!と分かる作品ばかり。レプリカとは言え味わいある建物と融合して、なかなかの趣き。
美術鑑賞で心を満たした後は、空腹を満たそう!と予約してあった「丘如春/YAUMAY(ヤウメイ)」という点心専門店へ。場所は美術館のすぐ隣の東京會舘、東京商工会議所があった場所に建てられた「丸の内二重橋ビル」の商業施設「二重橋スクエア」の2階。この建物は丸の内仲通り側が二重橋スクエア、皇居側に東京商工会議所、東京會舘が同居し、上層階は三菱地所と東京會舘が共同で所有するオフィスという面白い作りだ。
店は入口を入って左側がバーコーナー、右に進むと巨大なオープンキッチンを横目に見ながら正面に広い客席を見渡す、という新鮮なレイアウト。オープンキッチンと客席の間には良くあるガラスの壁もなく、キッチン上部にある巨大な換気扇が煙や臭いを吸い上げている。出来たばかりということもあるが、清潔感溢れる店内は高感度高し。家具や内装も香港にありそうな雰囲気。飲茶好きのお気楽夫婦の期待は高まる。
最初の一皿は、点心といえばの「海老蒸餃子」。プリプリのエビがゼータクにパンパンに入っている。皮は薄くモチモチで、繊細で上品な味。「ん〜、これはなかなか美味しいねぇ」早くもお気楽妻はOKのサインを出し始めている。まだまだ。評価は焼き物を味わってからじゃないか。とは言え、順調な出だしに頬が緩む。だいたい、少食の2人にとって、夜でも軽めに点心が食べられる“点心専門”というのが嬉しい。
焼き物は、これも定番の「ハニーローストポーク」。肉汁たっぷりジューシーで、脂が甘く、表面がカリッとして、ガッツリと旨い。先日、治療先の先生から膝の怪我が治らないのはタンパク質が不足しているからと断言され、肉肉しい食事を心掛けている。そんな今の私にぴったりのメニュー。バランス良く「台湾豆苗ガーリック炒め」と合わせ技で1本。生ビールをグビリ。く〜っつ、んまい。至福の時間が流れる。
店の名物料理「蝦夷鹿肉のパイ包み」は、楽しみにしていた一皿。サクッとしたパイ皮の中の鹿肉(ロンドンで有名になったメニューらしい)は、濃厚で黒胡椒が効き、というか効き過ぎており、美味しいのだけれど汗ダラダラ。臭みを消すために必要以上に黒胡椒が入っているのか。「豚肉でも良いんじゃないかと思う」という妻が名言を吐いた。全く同感。好きなのに辛味に弱いという(涙)私にとっては辛い味。とは言え大満足。
サクッと食べて(点心はこれが良い)、外に出ると丸の内仲通りはまだ宵のうち。以前なら週末はひっそりとしていたこの街も、明るくオシャレに大変身。地所さん、頑張ったなぁとしみじみ思う。ブランドショップの並ぶ街並みあり、美術館あり、香港まで行かずとも美味しい点心の店ありと、オフィス街に奥行きができ、深みができた。街並みがキレー過ぎて陰がなく、人によそよそしいから、ワクワク感はまだないけれど。
「くまモン発見!」すかさず観光客の如く自撮りする2人。そうか、お気楽夫婦にとっては、この街はホームではなく、旅先なのだ。渋谷、二子、シモキタのように、我が街として歩いてはおらず、ふわふわと少し浮いている感じ。そんな視線で見直せば、実に良い街なのだ。そうだ、また訪れよう。きっと、まだまだしばらくは他所者扱いされてしまうだろうけれど、一方的に告白しよう。丸の内、LOVE。