美景の宿「TOBEオーベルジュリゾート」

TOBE1TOBE2TOBE3ッスン休みだし、どこか行こっ」お気楽妻の週末は、スカッシュのレッスンが最優先事項。そのレッスンがないと分かると、すかさず旅に出よう!とスイッチが入る。どうやら、旅好き、ホテルマニアの血が騒ぐらしい。期限切れになる直前のマイルを使い、航空券の予約が取れる空港と、行きたいと思っていたホテルのリストを照らし合わせる。すると、松山空港と羽田往復、「TOBEオーベルジュリゾート」という組合せを選ぶことができた。伝説の“蛇口からみかんジュース”販売機がある松山空港から、まず鯛そうめんと鯛めしを食べに「五志喜」という郷土料理の店に向かい、“名物に(も)旨い物あり”の結論を得る。

TOBE4TOBE5TOBE6部焼で有名な砥部町にある「TOBEオーベルジュリゾート」は松山から車で15分。市内まで迎えに来ていただいたオーナーの越智さん(開業前に日本各地のホテルを泊まり歩いたらしい)とホテル談義をしながらリゾートに向かう。通谷池の湖畔に建つホテルは広大な敷地を有し、レストランとブライダル施設のあるメイン棟と、客室とエステルームがある宿泊棟に分かれており、両棟間はスタッフがカートで送迎してくれる。まるで東南アジアのリゾート気分♬バーカウンターと兼用のフロントの向こうには、湖の象徴となっている噴水(水質保全という名目で、民間で初めて認められた湖水の噴水だとのこと)が美しい。

TOBE7TOBE8TOBE9内されたのは、「こぶし」という(なぜかアップグレードしていただいた)スイートルーム。「小さなホテルなのに何号室では味気ないので、全室花の名前を付けました」と越智さん。湖に面した方向は全てガラス窓と扉。湖の周辺は先人たちが桜や紅葉となる広葉樹を交互に植えてくれたお陰で、春も秋も客室から見事な眺めになるのだという。客室のレイアウトやデザインはシンプルながらスタイリッシュ。床や家具の木目と、漆喰の白が柔らかな雰囲気を醸している。ベッドルームと一体になったダイニングスペースの縦格子戸の奥は、なんと洗面、トイレ、シャワーブース、バスタブが機能的に配置された水回り設備だ。

TOBE10TOBE11TOBE12わぁ〜!ステキ❤️」普段はテンションが低い妻が、MAXの感嘆符を飛ばす。バスルームの大きなガラス扉を全開にすると、半露天風呂になる仕掛けに感激の模様だ。「これなら外の温泉に行かなくてもいいね」チェックインの後に近くの温浴施設に行く予定を取り止め、部屋に籠ることにしたらしい。広いウッドデッキのバルコニーに出ると、同じ材を使ったデッキチェアが2台、湖に向かって並んでいる。スモークガラスの手すりを通して、寝転んでいても湖を眺められる。広い部屋の幅いっぱいに広がったデッキは清潔感に溢れ、実に清々しく、風呂上りにビールを飲むのにぴったり。この酷暑の時期でなければの話だが。

TOBE13TOBE14TOBE15めが美しいこのリゾートは、細部まで拘った客室の備品も美しい。けれども、必要以上に自己主張せず、気づいた時にハッとさせられる仕掛けだ。例えば、部屋の名前の“こぶし”が、至る所に配されていることに気付いたのは、部屋をひと通り眺めた後だった。桐の箱に入った宿泊約款の皮の表紙を開くと、こぶしのイラストと春夏秋冬の周辺散策のメッセージが描かれている。洗面ボウルの排水栓にもこぶしが描かれ、部屋の角コーナーに置かれたスタンドのランプシェードにも。そして、それらが全てオリジナルの(リゾートに10室ある客室の、10種類の備品を全て陶工に依頼して作った)砥部焼というのが素晴らしい。

TOBE16TOBE17TOBE18イングラスやタンブラーなどが収められているケースはライトアップされ、それぞれのデザインもおしゃれ。ビールもグラスで味が変わる。この客室のグラスは、思わず飲みたくなるデザインだ。さっそく風呂上りに、小川糸さんの『たそがれビール』を読みながら、「道後ビール」をいただく。至福の時間だ。夜、デッキに出て灯りをつけた部屋を眺め、その美景にため息を付く。何ともべっぴんな部屋だ。そして、翌朝のデッキからの眺めに再び嘆息。対岸にある「えひめこどもの城」というドイツの古城を思わせる建物や周辺の木々が湖に映り込み、朝ぼらけの空と共に、何とも美しい1枚の絵になっている。

TOBEオーベルジュリゾート」は、客室の内も、外の眺めも美しい“美景の宿”だった。「桜の季節とか、紅葉の季節に来てみたいね」と妻。彼女のさっそくの再訪宣言は、かなりお気に入りの証拠。了解。では、次回はぜひデッキでビールが美味しく飲める季節に!

音楽劇三昧、そして身体の性、心の性「ベターハーフ」他

SEX1リストパーネスは、プラトンの『饗宴』の中でこう語る。かつて人間は2人(男女・男男・女女)の身体が付いた1対の身体だった。ところが知恵を付け過ぎ、神の怒りに触れた人間は、身体を2つに裂かれてしまう。そして人間はその離れた片割れを求めるようになったのだと。2015年初演、2017年に再演された舞台『ベターハーフ』は、そんな相手を求める、若い男女、中年の男、トランスジェンダーの4人の物語。初演に続いてトランスジェンダーの“役”を演じるのは、中村中(なかむらあたる)。紅白歌合戦で初めて、戸籍上は男性として“紅組”で出場したシンガーだ。鴻上尚史の脚本は、彼女を中心に4人がぶつかり、愛し合い、別れ、泣き、笑う。彼女にアテ書きをしたのではと思ってしまう物語。舞台上で歌う(ピアノ弾きの役)彼女の歌は魅力的で、最初の曲『たとえぼくが死んだら』(森田童子)で、くらっと来てしまった。

SEX2都夜曲』は、マキノノゾミ作、河原雅彦演出の音楽劇。1930年代、魔都と呼ばれた上海のジャズクラブが舞台。セリフを音楽に乗せるミュージカルではなく、あくまでも音楽劇。ジャズクラブで歌われるナンバーや、登場人物たちが歌う唱歌が、自然に物語や当時の時代背景に溶け込み、重要な役割を果たす。主演の藤木直人が意外と(失礼!)良い。いや、かなり良い。公家の出の首相、近衛文麿の息子をモデルにした主人公。人を疑うことを知らないお坊ちゃん、という一面だけではなく、自分がなすべき役割を自覚し、目覚めていこうとする過程が好ましい。TV番組『おしゃれイズム』の前に出ないパーソナリティとしての印象しかなかったから、好感度急上昇。そして何よりお気楽夫婦のご贔屓役者コング桑田や、クラブの歌姫役の秋夢乃の歌が素晴らしく心地よい。開演前のバンドの演奏、幕間の遊びまで、オトナの舞台。

SEX3FILL-IN』は、久々の大王こと後藤ひろひとの作・演出作品。そして中村中が舞台中で演奏するバンドの楽曲を提供していた。自動車事故で急死した娘の代わりに、彼女がメジャーデビューしようとしていたバンドで、素人だった“父親”がドラムスを叩いて…というストーリー。主演の内場勝則(吉本新喜劇の座長)が素晴らしい。役の上だけではなく、稽古前は全くドラムスに触ったこともない、リアルな素人だった彼が、最後にはトリハダものの演奏を披露する。プロとはこういうものだと感激した観劇だった。そして、お気楽夫婦が観に行った日は、中村中がゲストとして、主人公のバンドの前にスタジオを借りていたミュージシャン役で舞台に登場。『ベターハーフ』とは違い、いい意味で肩の力が抜けた出演。いい“女”っぷりオーラを舞台上で発していた。彼女が戸籍上の男性だと知らずに観ていた人もいたに違いない。

SEX4間は男性、女性の2極では決してない。身体的に男女の性別はあるけれど、心の性と一致するとは限らない。ましてや求めるパートナーは、男性の身体と心で男性を求めたり、男性の身体で女性の心を持ち、女性として男性を求めたり、その組み合わせは多様。ニューハーフとか、オネエとか、マスコミに登場するタレントたちによって社会的な理解が深まってきたとは言え、まだまだ誤解が多く、性的マイノリティに対する風当たりは強い。そこを軽やかに超えた場所に、中村中は存在する…ように見えた。中村中が舞台で演じ、自らも公言するトランスジェンダー(transgender)は、文字通り“性を乗り越える”ことであり、必ずしも性同一性障害(身体の性と心の性の不一致に対し適合を願う医学的な疾患名)とは言えない。数年前、初めて中村中の存在を知り、歌声と容貌と社会的な性別のギャップに驚いた。彼は堂々たる女性なのだ。

い芝居だったね」とお気楽妻が満足の笑み。思いがけず、スカッシュ仲間が間違って2公演分予約してしまったチケットを譲り受け、観に行った『ベターハーフ』を皮切りに、1週間余りの間に3公演連続して出かけた音楽劇。それぞれにやられた!という感じ。鴻上尚史、マキノノゾミ、後藤ひろひと、3作品それぞれの作家・演出家の仕掛けが、芝居好きの2人のハートに刺さった。そして、何よりも中村中の存在が。「うん、彼女かなりいいね」と妻。だから芝居は止められない。

軽井沢を巡る旅「軽井沢ニューアートミュージアム、他」

Karui1Karui2Karui3井沢は自転車で巡る。王道だ。軽井沢駅前にはレンタサイクルの店が点在し、旧軽ロータリー近辺には大勢のカップルがタンデムの自転車でふらふら走る。実に軽井沢的な風景だ。ホテルに2台だけあったミニベロ(タイヤ径の小さな自転車)を借りて、お気楽夫婦も自転車でGO ! ホテルおたくの2人だから、まずは「ホテル音羽の森」、ジョン・レノン縁の「万平ホテル」とクラシックホテル巡り。豪華な別荘群を眺めながら、さらに「ホテル鹿島の森」を目指す。

Karui4Karui5Karui6中で立ち寄ったのは、天皇陛下が美智子妃と愛を育んだ、かの軽井沢会のテニスコート。趣ある佇まいに思わずペダルを漕ぐ足を止め、ひと休み。その後は、「ショー記念礼拝堂」を経て、旧軽銀座を避けて裏道を通り、人通りも疎らな旧ゴルフ通りを颯爽と走る。鹿島の森を過ぎ、南下する下りの道を軽快に走る。束の間雲場池で記念撮影。そして離山通りをかっ飛ばしホテルに戻る。全走行距離約7km。これは決して観光ではなく、完全に体育会系の走りだ。

Karui7Karui8Karui9日は美術鑑賞。これも美術館が点在する軽井沢観光の王道だ。お気楽夫婦が向かったのは、2012年に開館した「軽井沢ニューアートミュージアム」だ。ニューアートと冠するように、今や人気の草間弥生の作品や、映像だけの展示室があったり、音などの“展示”が続く、既成の美術館の概念とは大きく異なる不思議な空間が続く。トイレに至っては向井修二氏のインスタレーション(空間のアート化)によって、落ち着いて座っていられない状態に。もちろん利用可。

Karui10Karui11Karui12術館の中庭も、ジャン:ミシェル・オトニエルによる“愛の遺伝子展”という、分かったようなよく分からんオブジェを常設展示中。とは言え、総ガラス張りの開放的な建物、明るくPOPなミュージアムショップを含め、かなり気に入った2人。中庭でにこやかに自撮り記念撮影。妻はその内の1枚をプロフィール写真として採用した。元は2007年に商業施設としてOPENしたという建物。便利な場所にあるし、軽井沢再訪の際にはまたぶらりと足を向けたい美術館だ。

井沢、最後は買物だ!」そして軽井沢の旅の掉尾を飾るのは、アウトレットモール。ゴルフ場だった場所に作られた施設だから、とりあえず広い。かつ開放的な造り。1店あたりの面積も広く、ウィンドウショッピングだけで、さほど買う気なく出かけた2人でさえ、たっぷりとお買物。西武グループの戦略にハマった。「いい旅だったね」帰路、新幹線の中で「おぎのや」の峠の釜飯を頬張りながら妻が呟く。自宅から2時間弱で、こんな盛り沢山に楽しめるリゾートはそうはない。赤いカブリオレは持っていないし、例えこのリゾートに似合う老夫婦になる日は来なくても(笑)、飽かず何度でも訪ねよう。そう思わせる旅だった。

002185075

SINCE 1.May 2005