幸福の17貫(後編)「鮨いち伍」千歳烏山

Ichigo13Ichigo14ラグロです」コハダ、アオヤギ、赤貝と続いた後に、サヨリの握りを付け台の上に乗せながら、大将が笑う。以前、酒豪女子とこの店に来た際に、他の店でサヨリが好きだと言うと、サヨリの別名の「ハラグロ(女子)」と呼ばれてしまったという話題になったことがあった。そんなエピソードを覚えていたのだ。この店に通い始めた頃、重い空気があったのが信じられない、柔らかな雰囲気が店内に充満する。「店の外から覗いて、なかなか入れなかったんですよ」初めての来店だと言う隣席の初老のご夫婦が大将とことばを交わす。「どれも美味しいです。来られて良かった」奥様がことばを重ねる。

Ichigo15Ichigo16ハマです」この店に通うきっかけになったネタだ。行きつけの鮨屋を探していた頃、お気楽夫婦の大好物の煮ハマを置いている店がなく、ようやくこの店で食べることができた。「最近、ハマグリが獲れないんですよ」大将とそんな会話を交わした。それを覚えている大将は、お気楽夫婦の予約が入ると煮ハマを取っておいてくれるらしい。ありがたく、嬉しいことだ。続いて、イワシ、そしてアジの押し鮨。「押し鮨なんて珍しいねぇ。うんっ、美味しい」普段は自ら主張することが少ない妻。けれど、この店に出会って以降、決して他の店で鮨を食べようと言わない。実に幸福そうに鮨を頬張る。

Ichigo1746-02う言えば、この前取材が入ったんですよ」大将が何事もなかったように淡々と語る。聞けば、『早川光の最高に旨い寿司』というBS12の番組に取り上げられ、さらに私の前職のP社が発行する同名のMooks『早川光の最高に旨い寿司(ぴあMOOK)』にも掲載されるのだと言う。*店内の写真は番組公式HPより。おぉ〜、それは良かった。ん?ちなみにP社の担当者はO木くん?「あぁ、そうです。プライベートでも来ていただいて。お詳しい方ですね」うんうん、かつての後輩を褒められると、何だか自分のことのように嬉しいものだ。そして、ウニ、アナゴ、締めのタマゴで計17貫、心もお腹も大満足。

7年間、続いて良かったね」帰り道、妻が嬉しそうに呟く。決して交通至便とは言い難い店のロケーション。丁寧な仕事に見合った料金設定とは言え、周囲の店に比べてお手頃とは言えない。こざっぱりとした店は小さく、少人数の個人客相手の店構え。店のコンセプトに開店以来ブレはない。けれど、相変わらず最初から愛想が良い訳ではなく、さっぱりとした接客。逆に、それにハマった客が通い続けたのだろう。もちろん、お気楽夫婦もハマった口だ。次は春を味わいに!

幸福の17貫(前編)「鮨いち伍」千歳烏山

Ichigo1Ichigo2Ichigo3は食べたい。けれども、中途半端な鮨は食べたくない。それがお気楽夫婦のスタンスだ。とは言え、銀座辺りの高級店では敷居が高く、回る鮨では淋しい。ホントに美味しい!と思えるキチンとした店で、気軽に食べたい。わざわざ感がなく、普段使いができる店。常連客だけが席を占拠し、一見客が入り辛いような店は避けたい。鮨を握る大将との距離はほどほどで、季節のネタが揃っていて、食材を活かす仕事が施されている。それが2人の理想の鮨屋だ。

Ichigo4Ichigo5Ichigo6きつけの鮨屋に馴染みの板さんがいなくなり、新たな理想の鮨屋を探し、何軒も食べ歩き、ようやく出会ったのが7年前。「鮨いち伍」というご近所の店。開店早々の新しい店だった。鮨の味は申し分なく、料金も手頃。カウンタ席だけのこぢんまりとした店。最初は大将との距離感を測りかねていたが、訪問回数を重ね、店の空気が解け、居心地の良い店になった。以来、他の鮨屋には足を向けず、年に数回という頻度ではあるものの、ひたすら通い続けている。

Ichigo7Ichigo8Ichigo9しい!そろそろ行きたかったんですよ」友人たちを伴って出かけることが多いお気楽夫婦。その日の同行者はアスリート女子。何度か目のフルマラソンを完走し、ホッとできたタイミングでお誘いに応えてもらった。ビールで乾杯した後、さっそく握ってもらう。と言うより、近頃は何も言わずに大将にお任せ。最初はヤリイカ。隠し包丁の上にひと刷毛の醤油。赤酢を使ったほんのりピンクの鮨飯と山葵の緑が透けて見える。美しい。そう、端正な鮨なのだ。

Ichigo10Ichigo11Ichigo12鯛の昆布締め、甘鯛と別嬪さんの白身の握りが続く。昆布締めのタイはねっとりと旨く、嫋やかな甘鯛は繊細な美味しさ。堅めの鮨飯は絶妙に口の中で解け、ネタと素晴らしいハーモニーを奏でる。昆布締めの白身好きの妻はうっとり恍惚状態。これは日本酒だ!春鹿をお願いする。ん、旨い。辛口の酒が良く合う鮨だ。続いて初鰹、マグロの赤身漬、中トロ、大トロのトリオ。赤身のクリーンアップ。ネタの味わいの違いを楽しみ、丁寧な仕事を味わう。幸福の味。

後半に続く。


シェフは修行中!?「トロワキャール料理教室」

TQ1TQ2IGA−IGAはもちろん参加だよね♬」半ば強引にスカッシュ仲間の奥さまに誘われたのは、馴染みのビストロ「トロワキャール」で開催を依頼したという料理教室。私はすでに何度かカウンタで食事をしながら、料理のアドバイスをしてもらっていたので、すっかりシェフの聡ちゃんの弟子のつもりだった。だから、まぁ参加しないでもないよとエラそーに答えると、意外なことに妻が「私も行く!」と参加表明。だったら一緒に行くかと何人かのスカッシュ仲間と参加が決定した。週末のランチタイム、店を貸切にしていただき、カウンタでシェフの料理のデモを見ながら解説を聞き、その後に実食というスタイル。料理のレシピは、店のマダムまゆみちゃんが準備してくれていた。

TQ3TQ4日は肉料理、サラダ、魚料理とひと通り作って行きます」聡ちゃんの挨拶で、料理教室スタート。最初に時間がかかるレンズ豆を煮る。どこの豆が使いやすいかなど、実践的なアドバイスに生徒たちは頷き、メモを取り、写メを撮る。ふんふん、レンズに似ているからレンズ豆なのではなく、レンズ豆に似ているから“レンズ”と呼ばれるようになったんだ、“豆”知識も面白いぞ。ヴィネグレットソース、キャロットラペ、紫キャベツのマリネなど、ビストロ808でもすぐに使えそうなノウハウを伝授される。そうか、色落ちしないようにするには蒸し煮か。目から鱗のアドバイスだと関心したところで、そろそろビールください!メモは妻が丁寧に取っているからお気楽な受講生。

TQ5TQ6杯!楽しかったねぇ♬」さっそく教えてもらった料理の“お手本”を味わう。パテと一緒に供されたマリネの調理過程を詳しく見て、コツを聞いているから、今までと同じ料理なのに味わいが違う。さらに美味しい。なるほど!と頷きつつ、頭の中で復習をしながら味を確かめる。「前に行った店のキャロットラペが美味しくなくって、というかこの店が基準になってるからね」スカッシュ仲間の発言に全員が頷く。白身魚のポワレに合わせるのはフキノトウのソース、新玉ねぎのピュレ。絶妙な味付けと組合せの、春の味と香りが口の中に広がる。途中でそれぞれの味見はさせてもらったが、完成した料理のハーモニーは一段と素晴らしい。さすがプロ!さすが師匠!

TQ7TQ8ペ作ってみた!ワックスなしオレンジが欲しいなぁ」「レンズ豆洗わずに煮ちゃったけど、火を通すから大丈夫だよね」帰宅した受講生たちが、さっそく実践した報告のメッセージを交わす。何しろお土産にレンズ豆とヴィネグレットソースをいただいたのだから、参加メンバーは作ってみたいモード全開だ。妻が残業の夜、ビストロ808のシェフ(私のことです)も自主トレ開始。キャロットラペ、紫キャベツ、レンズ豆のサラダとひと通り作り、ひとり味見をしてみる。ん!んまいぞっ!特に秘伝の紫キャベツはなかなかのものだ。クミンシードが良く効いている。カレーに福神漬けの代わりに紫キャベツのマリネを食べると言っていたシェフのコメントを思い出し、深く納得。

キャベツ、なかなか良いんじゃない」相変わらず上からコメントだけれど、お気楽妻の評判も上々。これで次回のビストロ808開店に、ヴァージョンアップした料理をお出しできる。ちょっとしたアドバイスで、ステップアップできるのは料理も仕事も同様だ。「最近、料理や家事が仕事みたいだよね」と妻。まぁ、お代金をいただく仕事にはできないけれど、それも楽しいかもしれないね。

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