初子のラッパ「浜松まつり②」
2005年 6 月08日(水)
凧合戦の余韻が残る中、浜松まつりのもう一つの華、“御殿屋台”の引き回しを観に向かう。日中発散したエネルギーを夕闇の中で取り返すために、凧揚げを終えた人々は岐路に…つかないのが浜松まつり。これからが、また元気。というよりさらにエネルギッシュな祭の始まりだ。御殿屋台の引き回し自体は、優雅な祭だ。御殿屋台とは絢爛豪華な電飾飾りの付いた屋根がある山車。やはり町内ごとに贅を尽くしたその屋台を大勢の人で引いて歩く。だが、地元と街の中心部とで毎晩行われる引き回しの名物は他にある。“激練り”と呼ばれる文字通り激しい練りだ。
大勢の集団が手に手に提灯を持ち、威勢の良いラッパと太鼓の音に合せ、汗だくになりながら揉み合い摺足で練り進む。進軍ラッパのような音階と「おいっちょ、おいちょ」という掛け声が2、3日には耳の奥に残る。確実に記憶に刷り込まれる劇的な光景だ。祭りも終盤に差し掛かる頃、激練りの集団は御殿屋台を離れ、それぞれの町の方向に散って行く。そして、日中に初凧を揚げた家に向かう。街頭だけの灯りの下、家の前で待つ父親に伝令係りの若者が到着を知らせる。遠くからラッパの音が聞こえてくる。「おいっちょ、おいちょ」の掛け声と共に、無数の提灯が現れる。初子を祝う家の前を、太鼓とラッパの音、提灯の列と掛け声が威勢良く何度も周回する。
闇の中の激練が終わり、深々と礼をする父親と、寝入ってしまった息子を抱く母親。一緒に立ち並ぶ老夫妻。提灯の列も一斉に挨拶を交わし、整然と去っていく。太鼓とラッパの音が遠ざかる。子供がいない二組の夫婦も、見様見真似の摺足と小さな掛け声でその場を去った。心が震えた自分にちょっと照れながら。良い子に育てよ!と心から願いながら。
日本の祭り辞典
浜松まつり
浜松まつり 浜松まつり(はままつまつり)は、静岡県浜松市で毎年5月3日から5月5日までの三日間にわたり開催される凧揚大会と、同時に市内各地で行われるイベントの総称。凧揚大会は主に町単位で参加し、端午の節句にちなんだ初凧(はつだこ)と、町同士が凧糸の切り合いを行う凧合戦(たこがっせん)からなる。初凧は……