記憶遺産「オクスフォードの風景」
2005年 9 月04日(日)
「世界遺産」は人類の総意として歴史的に優れた建造物や、未来に残したい自然を対象にするなら、自分たちの記憶に残したい風景を極私的な「記憶遺産」と呼びたい。オクスフォードの街は、まさしくその「記憶遺産」に指定する街にふさわしかった。ある企業に入社し、新婚早々の妻を連れて2年間の留学。オクスフォードのマートン・カレッジ。夫には辛く苦しい“地獄”、妻にとっては“天国”の日々だったらしい。今はNYCに住む友人夫妻の話。
そんな二人が薦めるオクスフォードの街を訪ねた。ヴィクトリア・コーチステーションから、片道90分の日帰りの旅。ロンドンを離れ30分もすると、のどかな田園風景が現れる。(東京から西へ30分だと、せいぜい八王子あたり?)北海道を思わせる広大な牧草地が続く典型的なイギリスの田舎の風景。高山がなく、見渡す限り草原が拡がるだけ。雲ひとつない、青い空の下に。気分爽快!
フリーウェーから一般道へ入り、中世の街に紛れ込んだような錯覚を起こさせる風景の中をコーチが走っていく。日本なら一軒だけでも名所になりそうな建物が街道沿いに連なる。庭には見事に手入れされた花々が咲く。気がつくと残った乗客は最前列に座った我々だけ。運転手が「どこまで行くんだ?」と尋ねる。「ステーション。ランドルフホテルの近くだよね?」「あぁ、近くにあるな」無愛想と思った彼は、終点に降り立った我々に、ホテルへの道順を丁寧に教えてくれた。
ホテルまで向かう路の途中、何度も何度もシャッターを押した。どこを切り取っても絵になる美しい街だ。街灯から吊り下げられた花々が通りを彩る。ホテルでランチ代わりのアフタヌーンティの後、散策に出かける。友人の通ったと言う「Bear」というBARを発見。2パイントの温いラガーをちびちびと飲んだ思い出の店らしい。そして彼の母校へ。チャペルの横を通り、美しい芝生が拡がる前庭へ。素晴らしい。この環境の中で(たいへんだったとは思うけど)2年間学べたことは彼の財産なんだろうなぁ。
オクスフォードの北には、彼ら愛した湖水地方がある。さらに北上すればシングルモルトの故郷が。いつか彼らと、のんびりと旅してみたいと思わせる、イギリスの田舎町の滞在だった。