中華料理の南北格差「萬来軒と広味坊」(後編)
2005年 10 月30日(日)
中華三昧夫婦が住む街の駅から10分ほど歩いた住宅街にある「広味坊」。今は既に懐かしのTV番組「料理の鉄人」に最年少女性挑戦者で登場した五十嵐シェフの店。20年ほど前に「駅からちょっと遠いけど、南口に美味しい中華料理店がある」と聞いて初めて出かけた店だった。系統はヌーベルシノワーズ。創造性に富んだ、斬新なメニュー。確かに美味しい。地元にあったら、かなり嬉しい味。でも、その頃は北口中華と同様に間口の狭い、家族だけで切り盛りしている繁盛店だった。
それがマスコミ登場以来、父親の後を継いだ五十嵐シェフ自身も有名になりますます繁盛店に。そして、ふらっと寄ってもなかなか入れない店になった。旧店舗の隣に2店めの店を出しメインの店とし、隣の街に支店を出した頃には有名人ご用達の店になった。そして、環状線沿いに坦々麺専門の店を出した頃、通っていた旧店舗の厨房に五十嵐シェフはいなくなった。そしてある日、自宅隣のコンビニで買物中に驚きの店内放送が。「名店“広味坊”、五十嵐シェフがプロデュースする中華惣菜をご用意…」うわぁっ!ついにコンビニ進出かぁ。今では駅から歩く距離よりも、店が遠くなってしまった。
北口中華「萬来軒」の外観は中華定食系のこぢんまりとした店。テーブルが5つだけ、貸切にしても20入るのは無理。取材も基本はNG。一度だけ男性料理雑誌「danchu」に掲載されたのは知り合いに頼まれ断りきれずのことだった。一人でフライパンを振るおじさんと、愛想のない接客が常連に好評のおばさんが「2人で生活できるだけで良いからねぇ」という店。だからこそ、今でも成都まで勉強に出かけたり、本場の食材を仕入れてくるおじさんに敬意を表し、“今月のおすすめ”料理を食べに出かけるのだ。
そして、食べ終わった頃に「やっぱりIGAさんたちかぁ、注文の仕方で分かるんだよねぇ」と、会計の頃に店に顔を出し、挨拶してくれる。閉店時間まで居残った我々と一緒にビールを飲んだりすることもある。そんな店だから、これからもずっと通い続けることになるだろう。たぶん一代限りの、商売下手の、この愛すべき“ご近所の名店”に。