香りの記憶「シャネルNo.19」

p1000パリのメトロには、いつも甘い残り香が満ちている。お風呂が嫌いなフランス人たちが付ける香水の香り。学生時代に短期留学した時に、ジタンやゴロワーズの香りと共に、印象に残ったパリの“香り”。乗換駅の通路や、メトロの車内で演奏していたミュージシャンたち。混雑する車内で数人の男達に囲まれて財布を掏られそうになった友人。何度かパリを再訪してメトロに乗る度に、その頃のそんな記憶が、香り付きの映像として蘇る。

その頃好きだった女の子は、シャネルNo.19を付けていた。会う度に、その香りに触れるのが嬉しかった。その頃一緒に観た映画、美術展、一緒に行ったライブ、一緒に歩いた路。そんないろいろな記憶と共に、その香りは私の記憶中枢の深いところに刻み込まれたらしく、街を歩いていても、それだと嗅ぎ分けられる唯一の香水になった。色や、音や、味や、風景以外にも、記憶に残る“香り”があると知った。

自分自身も若い頃からコロンはずっと付けていた。愛用していたのは「スカイトレイル」という青い壜。白いカモメが翼を広げて飛んでいるデザインが印象的だった。(その爽やかな香りは、自分の爽やか成分の不足を補うため?)そしてバイト先の英会話学校のお姉さん達に、誕生日のお祝いとして買ってもらった「ムスク」。(男性フェロモンが足りないわよ、と言われていたのかも)それから20数年。自分の香りに鈍感なオヤジになるまいと思ってはいる。なのに、たらふく飲んだ翌日に、酒臭さを妻に突っ込まれる。スカッシュをやっている時には、自分でも「どうよ?」と思うほど汗をかく。…ちょい臭オヤジ?

そんなある日、昨年の全日本チャンピオンである教え子と対決するマイ・スカッシュコーチのプレーを観戦していた。すると、隣にいた女性コーチに「何付けているんですか?良い香り!」と聞かれ、答えられなかった。覚えていないのだ。自分の香りの名前を。そう言えば、会社でも同じようなことがあった。「IGAさんが付けてるコロン、良い香りですよね。妹も女性用を付けてます。何でしたっけ?」「何だっけ…」その時は翌日調べて答えた。会社用の香り「ダビドフ クールウォーター」。そして、先日の答えは休日用の香り、「アリュール オム」…ありゃ?シャネル!ブランド名すら覚えてないじゃないか!私の記憶中枢には、自分の香りは刻まれていないらしい。

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