青春とオヤヂの関係『夜のピクニック』恩田陸
2006年 11 月11日(土)
その本を読み始めたのは、オークラ・アクトシティ・ホテル浜松のカフェ・レストラン。途中の車窓までは爽やかな秋晴れだったのに、新幹線のホームに降り立つと、突然の夕立。傘を持っていなかった私は、途方に暮れた。妻との待ち合わせまで時間はたっぷりある。駅から濡れずに行けて、遅くまで開いている店を探す。結果的に、そこしか選択肢はなかった。そこで、生ビールと、クラブハウスサンドと、サラダを注文し、読み始めた。店に客は誰もいない。朝食ビュフェの会場にもなる大きなレストラン。がら~ん、と擬音が背景に入りそうな空気。微かに聞こえる程度のBGM。ゆったりしたソファ。読書には最適だ。
「その本は、面白いですか?どんな話なんですか?」突然、ビールを運んでくれたスタッフの女の子に、そう尋ねられた。面白いかと言われても、読み始めたばかり。焦った私は誠実に答えようと、精一杯努力する。「高校生たちの話。読み始めたばかりだけど、面白そうだよ」まぁ、及第点の答え。すると、ホッとする間もなく、「もう映画は観られました?」「いや、まだだけど」(そう言えば映画化されてたなぁ)「原作を読んでから映画観る方なんですか?」「映画を観た後で原作読むと、映像に影響されるから嫌なんだよね」「そうですよね」…と、すっと立ち去る。おいおいっ!中途半端な立ち入り方だなぁ!
ところで、作品の内容と言えば、全校生徒が80キロの道のりを夜を徹して“ひたすら歩く”、“歩行祭”が舞台。経験していないのに、なぜか懐かしいイベント。自分にとっては遠い過去なのに、身近に感じてしまう高校時代。暖かく、意地悪で、優しく、計算高く、純真で、賢く、初々しく、心地良い主人公の高校生たちの会話。彼らのまっすぐな視線を感じるシーン。思わずにやりとしてしまう。遠い目になってしまう。読んでいる最中なのに、また読み返したくなる。妻が乗る新幹線が到着するのは2時間後。待ち合わせまでの時間の長さを忘れて読み耽った。ビールのお代わりを忘れるぐらいに。
「これ、かなり面白いよ」空になったグラスを下げにきたスタッフの女の子に、素直に感想を伝えた。「じゃあ、読んでみます」…そんな短い会話もなんだか嬉しい。高校生になったような、軽やかな気持の、元気なオヤヂ。「それにしても、お店、気持ちよく空いてるねぇ」「そうですね、(ちょい怒)失礼します」…調子に乗ってしまったオヤヂの失言でした。あぁ、思い出した。いつもひと言多い、知らずに人を傷つける、そんな高校生だったなぁ。(「今でもそうだよ」と、妻)でも、この本は読んでね。