妻と、そして友人夫妻と「おたのしみ」

20ある週末の夕方、シモキタに出かけた。お馴染みの<本多劇場>で<加藤健一事務所>。カトケン(加藤健一)久しぶりの新作「特急二十世紀」。この芝居の観客は決して若くない、というかお年を召した方々が多い。カトケンと共に年齢を重ね、劇場に通っている古くからのファン。今回の公演で、VOL.65。観客も齢を取るはずだ。そう言う私も、1988年の「ザ★シェルター」加藤健一事務所VOL.7の公演から、再演を除いてほぼ全ての公演を観に来ている。20年間で約40本ぐらいは観ている計算。確実に“オールド・ファン”の一員。

一人芝居「審判」を上演するために立ち上げた加藤健一事務所。彼自身、舞台中心に活動しているから、TVには余り出演しない。世の中的には知らない人の方が多いだろう。巨頭だし、滑舌(かつぜつ)は良くないし、TVドラマで主役が張れる風貌ではない。翻訳劇は苦手な人も多いかもしれない。きっと永遠に爆発的な人気は出ない。けれど、この人のハートウォーミングなコメディは、次の公演もまた観たくなる魅力がある。切なくて、可笑しくて、安心して観ていられる貴重な芝居。今回は、舞台から映画に人気が移ろうとしている時代のアメリカの興行界のお話。シカゴ発ニューヨーク行きの特急の車内が舞台。コンパートメントの車両が実際に動き、スピード感ある演出。ネタの“古さ”も、この芝居と観客の中では違和感もなし。・・・こうして一生付き合っていくんだろうなぁ。

Photo_108翌週、立て続けに観た芝居は<ラックシステム>の「おたのしみ」。いつものように友人夫妻と一緒に出かけた会場は<スズナリ>。やはり本多さんの経営する小屋のひとつ。小さな劇場だから、後方の席でも舞台と観客の距離感が近いのに、その日は4人とも最前列。化粧のノリまではっきり分かり、熱演中の俳優の唾が飛ぶ。視線が合ってしまいそうな時は思わず目を逸らしてしまう。果たして良い席なのかどうか。<わかぎゑふ>率いるこの関西人を中心とした芝居も、毎回楽しみにしている。以前はNYC駐在の友人夫妻も含め、6人で出かけていた。次回公演を心待ちにする、やはり貴重な劇団。

「お正月」、「お見合い」、「お○○」と頭に毎回“お”が付く公演タイトル。わかぎゑふの脚本に毎回心が揺り動かされ、その才能に打ちのめされる。小さな小屋で上演してもらえることは嬉しいけれど、もっと多くの人に観てもらいたくもなり、他人には教えずこっそり愉しみたいという気もする。メジャーにはなってほしくはないけど、ずっと公演が続けられるだけの観客動員は保って欲しい。チケットが取れなくなってしまうのは困る。難しいファン心理。妻は、毎回この公演のパンフレットだけは確実に購入。公演が終わった後の出演者によるサイン会にきっちり並ぶ。普段のキャラからは想像できない行動。きっぱりと“ファン”なのだ。「ずっと一緒に観続けられると良いねぇ」妻がぽそりと呟く。中島らもの「永遠も半ばを過ぎて」というエッセイタイトルが好きな二人。“一緒”の相手は、私であり、友人夫妻であり。永遠は、有限であり、だからこそ貴重な時間。これからの“永遠の後半”の時間は、そんな二人の“おたのしみ”でもある。

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