シリアスは苦手?『モスクワからの退却』加藤健一事務所
2007年 6 月16日(土)
シモキタの街にはいろんな記憶が詰まっている。本多劇場、スズナリなどを会場とする小劇団芝居の好きなお気楽夫婦が、最も多く観劇に訪れる街。最近は渋谷など他の街で芝居を観た後もシモキタで食事をして帰ることが多い。芝居小屋でもらったチラシの束を、飲みながらチェックするのに向いている街。新宿3丁目と並んで、飲み屋のトイレに芝居のチラシやポスターが貼ってある率が高い街。とすると“最も多く飲み歩いた街”かもしれない。シモキタの街には、そんな公演の、芝居を観た後の、いろんな記憶が詰まっている。
カトケンの新作が続いた。会場はいつもの本多劇場。加藤健一事務所vol.66『モスクワからの退却』。久野綾希子、山本芳樹との3人芝居。妻が苦手とするシリアスなドラマ。彼女はカトケンの芝居だったらニール・サイモンを代表とするコメディが好き。せっかく“楽しもう”と芝居を観に行くのだから、考えさせられたり、意味を探ったりするよりも、単純に“楽しい”エンタテインメントが良いという理論。確かにこの日の舞台では、笑う場面よりも、心にチクリと棘が刺さったり、古傷に障るセリフがあったり。劇団四季の舞台では『キャッツ』のグリザベラや『エビータ』のエビータ役で堂々たる大女優という印象だった久野綾希子が、繊細で過敏で建前を振りかざすカトケンの妻役。ちょっと苦く辛い役。息子役の山本芳樹の明朗さ、爽やかさに救われる。
永遠に二人の思いが重なり続いていくと思っていた夫婦の、別れに向かって離れていく過程を丹念に描かれると、確かにちょっと重い。こんな気分の時には“旨いもの”を食べるに限る。二人が向かったのはお馴染みのヴェトナム料理屋コム・フォー。バーを併設したこぢゃれたエスニックの店。腹ペコの二人はさっそくお約束のゴイ・クーン(生春巻、青パパイヤのサラダ、バイン・セオ(ヴェトナム風お好み焼き)などをパクつく。小食の2人の大好物フォーまで胃を空けておく必要があり、オーダーは抑え気味。一見オムライス風のバイン・セオは野菜たっぷりのヘルシー・メニュー。黄色は卵ではなく、ターメリックの色。ミントなどの香菜を添えて、ヌクマムに付けてカリカリの皮と具の野菜や肉と一緒にかぷり。ぅ旨い。ライトなビールに良く合う。南の国の味。
そして待ってました♪フォーが登場。その日選んだのは坦々麺風のゴマのフォー。フォーは米の粉を平たい麺にしたライス・ヌードル。あっさりとしたスープが香菜、ライム、バジルなどと絶妙に交じり合う。旨いっ!香りの強い野菜が大好きなお気楽夫婦にとっては“幸せの味”。香菜の代表格“パクチー”などは追加でお願いするほど。「そろそろヴェトナムも行き時かなぁ」妻が呟く。そう、友人夫妻が住むNYCに、日程の関係で行けなくなった2人が夏に目指すのは南の島。う~む、候補に挙げても良いかも。