蕎麦打ち、蕎麦切り「蕎麦パーティ」後編

Photo塊世代のオヤヂたちを中心に、素人向けの蕎麦打ち教室は満員盛況らしい。その中には脱サラして蕎麦屋を開くプロ志向の人も多いと聞く。ある調査では、蕎麦打ち人口は50万人とも言われる。うどんを足で踏んづけるのではなく、素麺を手延べするのではなく、蕎麦なのはなぜ?その答えがこの店(お宅)にあった。まず、道具だ。蕎麦粉を入れ、捏ねるための鉢。黒光する塗りの大鉢は地肌の削りの荒さを残す美しさ。『サライ』の通販アイテムに載っていそうな逸品。文具、工具、釣具など、“道具”に弱いオヤヂに刺さる。私もひと目見てくらっと来た。凝りたくなる。形から入りたくなる。気持は良く分かる。

Photo_2して次に、蕎麦打ちの工程である。まず、ほんの僅かな水を加え、蕎麦粉を捏ねる。捏ねる。捏ねる。捏ね鉢の中の蕎麦粉が大きな団子状になるまでには、かなりの力と時間が要る。素人がやる作業としてはかなりハード。汗が滴り落ち、適度な塩分となって蕎麦粉に混じる。道を究めるような作業。捏ねる間はただ黙々と力を籠める。無心になる時間。その日の湿度や蕎麦粉の状態を見ながら水の量や捏ね具合を調整する。己の裁量で、蕎麦の出来の良し悪しという結果が出る。これらの工程そのものが、組織のしがらみの中で長い間働き続けてきたオヤヂに刺さる。これも良く分かる。

Photo_3は延し。生地の上に打ち粉を振り掛けて、手の平で延ばす。“地延し”と言われる工程。この辺からがいよいよ“蕎麦打ち”なのだろうけど、店主以外に手出しをできる状態ではなく、メンバーは見守るのみ。手打には参加できない。ある程度の厚さに延された生地を次に麺棒を使ってさらに薄く延していく。“丸だし”という工程。ここからはメンバーも恐る恐る蕎麦打ち体験。打ち粉を振って麺棒を押える。グーにした掌を内側に滑らすように延していく。簡単なように見えて、これがやってみるとなかなか難しい。初心者のリカバリーのために店主が大汗を掻きながらなんとか生地をまとめる。

Photo_4主の技で薄く均等に延された生地を畳み、たっぷりの打ち粉を振る。いよいよ蕎麦切り包丁の出番。この道具一式がまた見事。まな板も、蕎麦を押える小間板も、蕎麦打ち専用の道具。狭い我が家には到底収納できない。生地の上に小間板を優しく乗せ、小間板に合わせ包丁を垂直に立て、押し切る。その後に包丁で小間板を僅かにずらし、そのずらした分だけの太さの蕎麦をまた切る。この繰り返し。これがまた難しく、楽しい。メンバー全員が参加しての蕎麦切り体験のクライマックス。本格的な道具に触るだけで、ちょっと嬉しいいんちきプロ気分。

Photo_5、結果がこれ。右下の店主の切った蕎麦を基準に見比べると、皆の切った“蕎麦粉で作った麺状のもの”は、うどんやきしめんの太さ。蕎麦とは言いにくい。店主の均一な蕎麦の細さは、何度も繰り返し経験した結果。素晴らしい。ところでどこかで習ったんですか?「マンションの中の住民の方に師匠がいるんですよ」なるほど。店主の人柄もあるだろうが、この規模の集合住宅では、住民同士のコミュニケーションもいろいろ工夫が凝らされているらしい。ふぅむ、そういった師弟関係もオヤジ向きか。「よしっ、さっそく茹でましょう」いよいよ試食タイム!

Photo_6して手打蕎麦の完成!たっぷりの料理と酒でお腹いっぱいだったはずのメンバーの手が一斉に茹で上がった蕎麦に伸びる。「うわぁ、香りが良いし、とても美味しい♪」「腰があって旨いっすね」「あ、これ太い。私の切った麺かなぁ。でも美味しい」「自分で打った蕎麦は何より美味しいですよね」店主も満足そう。あれ?奥様は召し上がらないんですか?「私は毎週のように食べさせられていますから」そう言って、蕎麦を啜るメンバーたちに優しく微笑む。うぅむ、これか。夫婦円満の象徴。蕎麦が打てる家庭、それが許される夫婦関係。捏ねから食べるまでの長い工程を楽しめるかどうか。あるいは美味しい蕎麦を食べに行ってしまうか。「ウチの場合は、間違いなく食べに行っちゃうねぇ」と妻が呟く。まぁ、それもまた円満の形のひとつ。ところで、ご店主、奥様、ごちそうさまでした。

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