酔人綺譚「カレンダーの謎、振袖の夢」

Photo_2る寒い日の朝、トイレに入ってすぐに異変に気が付いた。まだ1月の半ば、正月気分も抜けきっていないというのに、目の前だけが2月になっていた。壁に貼られた全日空のカレンダー。1月の富士山が、なぜか2月の知床半島に。「昨日寝るまでは1月のままだったんだよ」と、妻の証言。確かに、洗面所の同じカレンダーは、1月の富士山のままだ。わが家だけがタイムスリップした訳でもなさそうだ。「夜中に起きて破いたのかなぁ・・・」妻は、“誰が”とは言わなかったが、明らかに非難めいた口調で、私に向かって呟く。そう言えば、記憶の端っこの方に“ある音”が残っていた。その、びりびりという音を聞いた気がするのは、トイレの中だったのか。「なぜまだ1月のままなんだ」と怒ったように呟いたのは誰だったのか。

Photo_3日、スカッシュのスクールメンバーと一緒に酒をたっぷり飲んだのは覚えていた。プロコーチや日本上位ランカーなども参加したスカッシュ男女混合団体戦の帰り。途中から合流したコーチと一緒に、沖縄料理屋で泡盛を飲んだことも。店でひと眠りしてしまい、目覚めて飲み直そうとしたら、もう一滴も受け付けない程、満タンだったことも。うぅ〜ん、その後はどうしたんだったか。あっ、もしかしてこれは“部分記憶喪失”と呼ばれる症状ではないか。「じゃあ先に出るよ!」妻は記憶喪失に罹った私を、無情にも置き去りにして出社してしまった。それにしても頭が痛い。喉が異常に渇く。これも記憶喪失の症状のひとつか。あぁ、辛い。このまま記憶が戻ってこなかったらどうしようか。失った記憶はどんなものなのか・・・。

Photo_4ぁ〜、IGAIGA(私のこと)この前は楽しかったねぇ♪」数日後、団体戦の後に一緒に飲んだ友人(♀)にスポーツクラブで声を掛けられた。「あの日はみんなすごい飲んでたよね。私も翌日まで気持悪くて・・・」確かに。「帰りの電車の中で、振袖姿の成人式の女の子に、きれいですね、きれいですねぇって何度も言ってたよ。すいません、この人酔っ払いでって謝っておいたけどね」え!それも失われた記憶のひとつ。思わず、私はジローラモだったのか!と自分に突っ込む。「なんか、可愛いくて、とても良い娘でさ、ありがとうございますって言って笑ってたけどね」断片的に振袖の鮮やかな柄と色合いが蘇る。あぁ、あれは夢じゃなかったのか。けれど、顔は全く浮かんでこない。別の意味で残念。

う言えば、店で寝ながら拍手してたしね」え、私が?まさか。まるで酔っ払い丸出しじゃないか。「電車の中でも拍手してたよ」2人の会話に妻も入って来た。複数の証言がある以上、事実なのだろう。なるほど。右手が使えないため選手としてはほとんど参加できず“監督”として臨んだ団体戦。妻をはじめとした選手たちのプレーに拍手し、酔って眠った夢の中でもグッショット!とか言いながら拍手し続けていたのだろう。我ながら良いヤツ。その時、私の記憶が蘇った。トイレに座り、几帳面にも画鋲を外して、1月のカレンダーを破り、2月のカレンダーを眺めながらにんまりしたのは紛れもない私だ。現実と夢の端境で、夢の中の出来事とは思わず、現実の行動を無意識に起こしてしまう。思わず笑ってしまう出来事。

これだから酔っ払いはやめられない。すると「ただの酔っ払いでいられるのも、私が連れて帰るからでしょ」と妻。まぁ、おっしゃる通りです。

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