Bunkamuraの20年『パイパー』野田地図

Photo卒で入社したのは、「不思議、大好き」とか、「おいしい生活」とか、「じぶん、新発見」などの糸井重里のキャッチコピーでお馴染みだった百貨店。今やコンビニの売上に負けてしまったけれど、当時の百貨店はまだまだ元気だった。男女雇用機会均等法が施行される前、女子大生の就職先として人気のその百貨店も実に元気だった。総合生活産業を標榜し、単なる流通グループではなく、文化を売る企業グループだと、今は作家生活を送っている当時のT会長は言っていた。グループ内に美術館、劇場、映画館、カルチャーセンターなどの文化施設を抱え、文化事業部というセクションもあった。とは言え、実態は流通。流通志望で入社した訳でははなかった私が在籍したのは数年程度だった。そしてそのグループは陽炎のように消えようとしている。

職したのは情報誌を発行しているベンチャー企業。私がアテネフランセに通っていた頃、教室の窓から小さな看板が見えた。その会社がいつの間にか大きくなり、新たに始めたのが日本初のコンピュータ・チケッティング。私が在籍した百貨店と一緒に事業をスタートするはずだったのに、直前に裏切られ…という話を聞いたのは入社してからだった。数年後、その百貨店とライバル関係にあった東急百貨店が本拠地渋谷に大プロジェクトをスタートさせた。複数の劇場、映画館、美術館などの複合文化施設を本店の隣に創るというものだった。当時はまだ珍しかったオフィシャル・サプライヤーというサポート企業を集め、運営するというスタイル。地下からの吹き抜けを、アート系の書籍を多く集めるブックショップ、「カフェ・ドゥ・マゴ」、シアターコクーン、オーチャードホールなどが取り囲む実に良い空間が完成した。文化はビジネスにはなり難い。しかし、東急は明確なコンセプトの基、その“村”を20年運営して来た。決して経営は楽ではなかった(と勤務する友人にも聞いている)とは思うが、その功績に拍手を贈りたい。

Photo_2急文化村は、当初からフランチャイズ・システムを採り、オンシアター自由劇場(現在は任期満了)や東京フィルなどがフランチャイズ契約を結んだ。また、劇場ごとに専任プロデューサーを置き、独自の企画・運営を行って来た。そこから中島みゆき『夜会』『渋谷・コクーン歌舞伎』『東急ジルベスターコンサート』蜷川プロデュースの舞台などの名物公演が生まれた。お気楽夫婦が最も足を運んだ劇場でもある。そして、野田秀樹が主催する「NODA MAP」も第1回公演からずっとシアターコクーンを中心に芝居を行ってきた。人気であるが故に全公演のチケットはゲットできなかったのが残念だけれど、『キル』『ローリング・ストーン』『半神』『パンドラの鐘』『贋作 罪と罰『カノン』『ロープ』など、多くの舞台を観て来た。ということで、野田地図(NODAMAP)第14回公演『パイパーを観た。

台は1000年後の火星。これまでは過去の歴史を野田流に紡ぎ直すことが多かった野田芝居。今回も実際に起る未来の歴史を紡ぎ出すような独特の野田の世界は変わらない。パイパーと呼ばれる生命体と、火星に降り立った最初の移民たちの群舞が凄い。ぞくぞくモノ。振付のコンドルズ 近藤良平が凄い。鳥肌モノのパイパーダンス。そして、何よりも松たか子と宮沢りえが凄い。圧巻は、永遠に続くのではと思う程の2人の掛け合い台詞セッション。廃墟となった火星を彷徨う2人が目にしたものを、短く、鋭く、時に長台詞で語るシーン。2人の台詞で、そこにどろどろの海が現れ、傷ついた人が現れ、熱い風が現れ、赤土の大地が現れる。2人の才能の組合せはどんな芝居になるのだろうと思ったけれど、期待以上。舞台の上で世界が熱く燃え溶けるような化学反応が起きた。こんな贅沢な配役で、脚本が書けるのも野田秀樹なればこそ。こんな舞台が観られることに感謝。20年を経ても、まだまだ元気なBunkamura。これからも頑張って♪

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