暮らしの中のアート「ピカソとクレーの生きた時代」
2009年 3 月29日(日)
ある週末の朝、ヴィロンのパンを食べるために渋谷に向かった。9時の開店に合わせ、なんとか席を確保。たっぷりと満足の朝食を取り、店を出たのが10時。BunkamuraのOPENの時間だ。ザ・ミュージアムで開催されている「20世紀のはじまり ピカソとクレーの生きた時代」展に向かう。朝早く渋谷にやって来たもうひとつの理由。ドイツにあるノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館所蔵の絵画展。同美術館の改修工事の期間中、主要コレクションを大量に貸し出したという貴重な企画。目玉はタイトルにもなっているパウル・クレーのコレクション27点。そして、同時代に生きたアンリ・マティス、パブロ・ピカソ、マルク・シャガールなど表現主義、キュビズム、シュルレアリスムの巨匠たちの作品が並ぶ。実に見応えのあるコレクションだ。
何の事前情報もなしに見て回った会場にルネ・マグリットの作品があった。このシュルレアリスムの作家が大好きな私にとっては、偶然出会えただけにかなりの幸福気分。学生時代、パリに短期間留学した際に、ちょうどポンピドゥー・センターで開催されていたマグリット展に足を運んだ。セーヌ河畔のポスター屋を眺めて廻って画集やポストカード、ポスターなどを買った。その後も世界各地の美術館で偶然出会うマグリットの作品に心躍らせた。そんな記憶が蘇る。満足感に包まれながら会場をのんびり歩き回る。近代美術の作品は、意味を考えるのではなく、シンプルに色彩や形を楽しむに限る。それにしても期待していた以上に良い美術展だ。
これらの作家たちの作品はお気楽夫婦の身近なところにある。まず、玄関で迎えてくれるのはジャン・コクトー「Le Ange」のポストカード。深い青の背景に、白く浮き出る天使。『恐るべき子供たち』などの作品で知られる小説家でもあるコクトーは、ピカソとの親交も深かったという。そして寝室にはアンリ・マティスの大きなポスター。「イカルス」というタイトル。色彩の基調は鮮やかなブルー。いずれもシンプルな線と色彩の組合せ。作品が何かを象徴しているにせよ、毎日眺める住人にとっては、インテリアの一部。色とかたちのリズムが、自分たちの視覚にとって心地良く響くことが大切。
リビングにはジャスパー・ジョーンズの「Ventriloquist(腹話術師)」という作品のポスター。ジョーンズはアメリカのポップ・アートの代表的作家。MOMAに所蔵された実物も見たけれど、ポスターでも充分楽しめる。これも現代アート作品の嬉しいところ。生活の身近な場所に、暮らしの中に心地良い“モノ”がある。お気楽夫婦にとっては、それが大事なこと。お気に入りの家具や食器を納得いくまで選ぶのも、パソコンの機能だけではなくデザインを重視するのも、ポスターや写真をどこに飾るかを悩むのも、自分たちの快適な生活のため。「そうなんだよねぇ。だから本もきちんと並んでいないと嫌なんだ」妻は作家ごとに本を並べるのはもちろん、背表紙の色を考え、発行順に揃える。確かに美しい。けれど、だからと言って、ティッシュBOXのストックまでそんなにきれいに並べなくても・・・。