香港の3つ星はB級グルメにあり「九記牛腩」「沾仔記」他
2009年 9 月06日(日)
お気楽夫婦の香港食い倒れ旅は、麺粥店探訪の旅でもある。日本にいても妻は独特の歯応えの香港麺が無性に食べたくなると言い、二日酔いの朝に私は皮蛋痩肉粥(ピータンと豚肉のお粥)が欲しくなる。2人はそれぞれ香港麺を輪ゴム麺、皮蛋痩肉粥をピータン痩(やせ)肉粥と呼び愛しているのだった。そんな2人がまず向かったのは、上環にある「九記牛腩(ガウゲインガウナム)」という牛腩(牛バラ)麺で有名な店。昼時とあって近所の学生や会社員で賑わっている。店頭に立つと店のおばちゃんに「1階はいっぱいだから、2階に上がんなさいっ!」と(たぶん)叫ばれる。はい。素直にうなずくお気楽夫婦。
急な階段を上ると2階にも人がぎっしり。かろうじて2人分の席が空いている。当然相席である。「何にしますか?」と(たぶん)叫ばれ、なんとなく典型的な日本人のように曖昧に困っていると英語のメニューを持ってきてくれる。これとこれ!と指差しオーダー。「あいよっ、牛腩麺と牛腩河粉ね、旨いよ!」と(たぶん)きっぱりと頷かれる。そして、すぐに出て来る。まさしくファストフード。そしてこれが、抜群に旨い。柔らかく優しい味の牛バラ煮込みが、店の見掛けに似合わずとても上品な味のスープが、さっぱりとしたキシメンのような河粉(ホーファン)のそれぞれが美味しく、その組合せは涙が出る程美味しい。量は少なめながらもあっという間に完食。「ふぇ〜ん、ほんとに美味しかったねぇ♪」と妻。「ところで、近所に人気の飲茶屋さんあるんだけど、行ってみる?」と続ける妻の瞳が輝く。
行ってみる?という疑問形になってはいるが、妻の発言は「行ってみよう!」より強く、「行くよ」に近い命令形である。はいはい。九記牛腩から歩いてすぐ、香港で一番人気のレストランサイト「Open Rice」でランキング1位の飲茶レストラン「蓮香樓(リンヒョンラウ)」がその店だった。ワゴンを押すおばちゃんたちの「これ旨いから食いな!」と(たぶん)叫ぶ声をかわし蒸篭の中を覗く。「あ、これちょうだい」と日本語で言い、伝票を渡すと判を押してくれる。茶碗と箸はお茶ですすいで使う。古いスタイルの飲茶。地元の常連さんたちが難しそうな顔をして食べまくっている。彼らの表情はともかく、料理はなかなか旨そうだ。とは言え麺を食べた直後。豚足の煮込と蓮葉飯の2品だけ食べてみる。ふむふむ、期待以上に美味しい。妻はと見ると満面の笑み。「なんだか楽しいねぇ♫」ホテルのレストランで食事するよりもテンションは高いぐらいだ。
翌日は妻待望の雲呑麺ランチ。数ある候補の中から選んだのは中環に2店を構える「沾仔記(チムチャイゲイ)」。☆は付いていないが、ローカルフードの店としてミシュラン香港版にも掲載されている人気店だ。最近改装したばかりという店内は清潔。やはり地元客と相席。巨大な蝦ワンタンが乗った麺が魅惑的。写真を撮ると同席の若いカップルから不思議そうに見つめられた。日本人は食事をする前には写真を撮るんだよと教えそうになった。「う〜ん、美味しい。この麺なんだなぁ、輪ゴム麺だ♪」細く腰はないのに切れ難い香港麺は、なぜか旨い。「羅富記よりも、こっちの方が好きかも♪」有名な人気店である羅富記麺粥専家よりも魚の出汁が抑えめで食べやすい味。羅漢果がスープに入っているという、ほの甘い上品なスープだ。
そして香港B級グルメの掉尾を飾るのは皮蛋痩肉粥だ。旺角(モンコック)にある「好旺角麺家(ホーウォンゴッミンガー)」という人気店に向かう。ところで旅行情報誌に掲載されているお粥の写真は演出過剰。具はあんなに美味しそうに粥の上に乗ってはいない。痩肉も皮蛋も粥のカオスの中に一体となって沈んでいる。そう、絵にならないのだ。それでも妻に協力してもらい皮蛋を掻き出し撮影。まぁこんなもの。そしてひと口。旨っ。とろとろの粥と、皮蛋と痩肉(豚肉)の舌触りと味のバランスが何とも言えない。幸せの味だ。6泊7日で痛めつけた胃腸を粥が優しく労ってくれる。「やっぱり香港は美味しいね♪」妻も蝦子撈麺(海老の卵で和えた汁なし麺)を食べながら満足の笑み。香港の美味しさは街のこんな小さな店に溢れている。
「ミシュラン香港・マカオ版」は、掲載店202軒の内☆なしの店が153軒。それも「沾仔記」のような店をSimple shop serving local foodというカテゴリで掲載している。審査員は西洋人系がほとんどで評価が偏っているとの噂もあるけれど、逆に言えば掲載店のバランスは旅行者にとっての香港の食事情を現していると言えるし、一方で香港人の食に対する拘りも感じさせるものになっている。帰国の際に空港でミシュラン香港版を発見した妻はすかさず購入。何よりの自分へのお土産だ。「さぁ、次はいつ来ようか!」お気楽夫婦の香港詣では続く。