それぞれのマリアージュ「日本料理 三須」浜松
2010年 5 月09日(日)
マリアージュ(mariage)とはフランス語で結婚。そして、ワインと料理の組合せもマリアージュと呼ぶ。つまり、ワインと料理がお互いの味を引立て合い、“素晴らしい”組合せになり、結ばれるという肯定的な使い方。結婚を全て素晴らしい組合せと呼ぶかどうかは異論はあるだろう。しかし、酒と料理の組合せに好みがあるように、男と女の組合せ、夫婦の組合せもそれぞれ。そして、その組合せを合うと思うか、合わないと感じるかの基準もそれぞれ。GW期間中のある日、お気楽夫婦と妻の両親という2組の夫婦で、1組の夫婦が営む日本料理屋を訪れた。
妻の両親が住む静岡県浜松市。バリアフリーの住環境を求めて長年住んだ一軒家を売却し、私鉄沿線の駅にほど近いマンションに移り住んだ。そのお隣の駅近くに気になる店があった。店の前には「日本料理 三須」と控えめな看板。駅に近いとは言え、住宅地の中にある料理屋。身近なような、敷居が高いような、微妙なオーラがある。2日前までに予約して欲しいとのWEBサイトの案内を知りながら、当日の朝に予約の電話をしてみる。すると、しばし間があったものの「お待ちしております」との回答。脚の悪い義母のためにカウンタの席をとお願いすると、大丈夫とのこと。まずは安心。
予約の時間にやや遅れて店に入る。入口でこぢんまりとした店のほぼ全てが見渡せる。落とし気味の間接照明、すっきりとした白木のカウンタ。好感の持てる楚々とした佇まい。カウンタのコーナーに飾られた凛とした花が、決して広くない空間を和らげている。他に客はいない。もしかしたら、GW期間中でお休みの予定だったのか。「いらっしゃいませ」と、おかみに迎えられる。カウンタに座り、飲み物を尋ねられる。飲むのは自分だけで他はお茶をいただくと告げる。メニューはないが、どのような酒が好みかと聞かれ、おススメの日本酒をお願いする。急な予約を詫びると挨拶に現れたご主人が「お休みにしなくて済みました」とはにかみ笑う。やはり(汗)恐縮ですと返す。
「十四代はお飲みになったことはあると思いますが、純米大吟醸の七垂二十貫というお酒があります。最初にいかがでしょう」はい、お願いします。この店も「割烹 弁いち」と同様に、料理に合わせてお酒をお任せするのが最善の店と直感した。弁いちと違うのは、やり取りの全てがおかみ相手だということ。何度か顔を出すものの、短い会話を交わして厨房に戻るご主人は料理に徹し、接客と酒を薦めるのはおかみの役割という分担らしい。聞けば、口数の少ないご主人は、それでもその日は初対面にも関わらず良く話をしているという。ウチもコミュニケーション担当と、酒を飲む担当は私だと笑う。
料理に徹するご主人が作り出す品はどれも繊細で美味。おかみの薦めてくれる酒との組合せも素晴らしい。口数の少ない妻の両親も、他に客がいないこともありリラックスして食事ができ、ご近所ということもあり話も弾んでいる。そんな食事の風景が嬉しい余り、薦められるままに3種の酒を飲む。どれも絶品。酒は料理との組合せで旨くなる。食事の相手、接していただく相手で旨くなる。男と女、酒と料理、どちらが酒でどちらが料理か分からないけれど、組合せ次第で互いが活きる。「酒があなたに決まっているじゃない。そんなに酔っぱらっちゃって」と妻。いやいや、飲んでいるのは私でも、すっかり妻に飲まれているのは私。それぞれの夫婦の関係、それぞれのマリアージュ。