婿殿も修行中!「かみのやま温泉 古窯」
2010年 8 月15日(日)
末弟の義父が急逝したのは昨夏。交通事故による突然の訃報だった。ところが、お気楽夫婦はヴァカンスの真っ最中。長弟からの葬儀の連絡も空しく、一切の連絡が取れない状況の2人。帰国後、メールと留守番電話のメッセージに慌ててお悔やみの連絡。失礼極まりない長兄だった。その非礼のお詫びも兼ね、1周忌を迎える今夏、お気楽夫婦は弟の住む温泉街に向かった。前夜の深酒の後遺症(二日酔いとも言う)に悩みながらも、たっぷりの朝食を取り、マスターの運転で月山を越える高速道を走る。国交省の施策“高速道無料化社会実験”の名の下にタダになった山形自動車道。内陸に向かうルートはスムース。対して、夏の海に向かう対向車線の交通量は、以前と違い渋滞気味。社会実験の結果は明白。
予定通りの時刻に義弟の一族が待つ新居に 到着。婿養子として、農家に種苗などを販売する商家に嫁いだ末弟。朝早く起き、農家や家庭菜園を行う地元の爺さん婆さん相手に、懸命に商売をしてきた。けれど、元気に野良仕事をこなす義父の跡を継ぐのは、まだまだ先だと思っていただろう。地方のムラ社会での家長の役割は、多方面に渡る。昨夏の葬儀では、会ったこともない親族、檀家の役員などへの対応に苦労したという。弟の住む街は、内陸部の温泉街。生家のある海辺の街とは“ことば”が違う。極端に言えば、お互いのことばが通じない。地元の国立大学に進学した弟は、長い時間をかけて“ことばの壁”も乗り越えた。親族が集まるリビングルームでは、異国のことばが飛び交っていた。「…全くことばが判らない」妻は目を回す。けれど、末弟は2カ国語を実に器用に使い分ける。
自宅での一周忌法要を終え、向かった菩提寺は「法圓寺」という古刹。山門から本堂を眺める。高く聳える松、地面に並行して枝を伸ばす松、それぞれがきれいに枝が整えられている。立派な鐘楼まである境内の隅々まで、手入れの行き届いていることが判る。本堂での法要を待つ間、これまた堂々たる2間続きの座敷で一休み。雪見障子越に中庭が見える。池や庭木のバランスが素晴らしい。思わず廊下まで出て庭を眺める。う〜ん、これは見事。座敷に戻り、ご住職に庭の素晴らしさをお伝えすると、剪定した樹にとってはもう少し慈雨が必要なのだけれど、と穏やかに微笑まれる。その後本堂で法要。本堂の設えも、欄間の彫刻も素晴らしい。良いお寺さんだ、善いご住職だ。そして、善い檀家衆なのだろう。
法要が済み、お斎の会場「日本の宿 古窯」に向かう。旅行業者が選ぶ日本の名旅館上位の常連、地元住民自慢の宿でもある。立派な宴会場で、豪華な料理が並ぶ。施主として末弟が挨拶。滞りなく、それでも緊張しながら。会場の空気が硬くなる。その後をご住職が穏やかに挨拶を引き取り、訓話をいただき、和やかに会食が始まる。ふぅ。ほっとする。思えば、会場内の親族の中でも若手となる末弟。早過ぎた家督の相続。家を継ぐ者への試練でもあり、教育でもある。都会にはなくなってしまった、地域の縦社会の断片。一人前の大人になるための通過儀礼。婿殿はこんな世界で、こんな社会で頑張っているのだ。頑張れ!婿殿!Go Ahead!
「お風呂入っちゃおう♡」妻の提案に頷く。帰りの新幹線の時間を言い訳にお斎を中座し、名旅館自慢の大浴場に向かうお気楽夫婦。日中の男性風呂は最上階の展望風呂。誰もいない湯船に身を浸す。ふぅ、良い旅だった。お祝いも、弔いも無事に済ませた。それぞれが地域に根を張る弟たちを見届けた。「なんだか、3人とも似てるよね」妻が新幹線のシートに身を沈めながら呟いた。