ベスト盤と音楽配信『いきものばかり』『The Beatles/1962-1966』
2010年 11 月21日(日)
CDが売れないらしい。ミリオンセラーのタイトルが減っている。音楽をレコードやCDというパッケージで購入する時代から、ダウンロードの時代に移行している。かつて、レコードからCDに移行した1980年代は、音源と録音媒体のデジタル化が並行して進行した時代でもあった。デジタル化の夜明け前、聴きたいアルバムを全て買うことはできないから、音質の良いFM放送の番組をカセットテープに録音した(エアチェックと呼ばれていた)。必死に『FM Fan』などのFM情報誌を買って楽曲をチェックしていた。曲の始まるタイミングを計り、息を殺して「REC」ボタンを押していた。ダビングがカンタンにできるダブルカセットのラジカセが人気だった。自分のセレクトした楽曲をオリジナルのベスト盤として編集していた。海岸線をドライブする時、スキーに行く時、彼女がウチに遊びに来た時、などというヴァージョンがあった。…お金はなかったけれど、時間と情熱だけはたっぷりあった。
10代の頃に比べれば、時間はないけれど、お金はある。そんなオトナも購入するのがベスト盤CD。気になるアーティストのオリジナルアルバムを買う程ではないけれど、耳に残った=知っている楽曲が入っているベストアルバム。お気楽夫婦のCDラックにも、米米、ポルノ、hitomi、倖田來未、ZARD、一青窈、PRINCES×2、CHEMISTRY、スピッツなどなど、一貫性がないと言われても仕方ないラインナップが並ぶ。そんな2人のライブラリに新たなアーティストのベスト盤が加わった。いきものがかりの『いきものばかり』。正直に言えば、2006年のデビュー曲『SAKURA』は、ちょっとせつなく暗めの曲調が苦手だった。けれど、2008年の『ブルーバード』『気まぐれロマンティック』の明るめの曲調で、あれ?好きな曲かも…となり、2009年の15枚目のシングル『ジョイフル』で、2人揃ってお気に入りのアーティストになった。で、ベスト盤『いきものばかり』だが、…良いアルバムですよ、これ。やはりベスト盤はアーティストを深く知るきっかけであり入口。おススメ。
ところで、ベスト盤の中のベストは何かと尋ねられれば、ビートルズの赤盤と青盤!と答える。私にとって初めてのベスト盤であり、ビートルズとの出会いとなった『The Beatles/1962-1966』『 The beatles/1967-1970』だ。ビートルズ解散後の1973年に発売された2枚組。多感な10代だった私にとって、バイブルのようなアルバムだった。誰にとっても繰り返し繰り返し聴いたアルバムがあるはず。いわゆる“すり切れる程”聴いた1枚(2枚組×2セットだけど)だ。赤盤の1曲目デビューシングルの『LOVE ME DO』から、『PLEASE PLEASE ME』『FROM ME TO YOU』『SHE LOVES YOU』…と、このアルバムの収録順に楽曲を覚え、口ずさんだ。青盤の2枚目A面の『BACK IN THE U.S.S.R.』が終わり、一瞬の間の後に「Hey! Ya!」というジョンの掛け声と共に始まるピアノソロ、ゲストミュージシャンとしてギターソロを演奏したエリック・クラプトンの泣きのギターが大好きだった。その後、ほぼ全てのオリジナルアルバムを購入したけれど、このアルバムは別格。10代の頃の記憶も一緒に刻まれている1枚(2枚組×2セットだけど)。
この秋、その2枚組×2セットがリマスター音源盤で発売された。涙目になりながら即購入。発売された時と同じ(サイズは違うけれど)紙のジャケット。同じ場所で4人が写真に収まっているジャケットデザインも一緒。アップルレコードのA面:Apple、B面:Cut Appleのデザインも一緒。涙。そんな涙したオヤジが多かったらしく、赤盤、青盤ともオリコン・アルバムランキングで上位を獲得。そして、11月17日“Apple”のi-Tunesで、ビートルズの楽曲デジタル配信開始。配信早々のi-Tunesアルバムのチャート1位は赤盤。さすが!その上、ベスト20の中に10作品が入り、4位には『The Beatles Box Set』23,000円!がランク入り。購入した層が目に浮かぶ。
CDが売れないのは、音楽が売れないのではなく、音楽配信化されただけではなく、魅力あるアーティストがいないからだけでもなく、“きっかけ”がないだけでもある。身近に音のある生活は“楽”しい。ベスト盤という“きっかけ”でも良い、ずっと音楽が傍らにあって欲しい。「でね、もうCDがラックに入らないんだけど」と怒り気味の妻。そう、デジタル化は収納の悩みがある男を救い、同時にコレクターとしての男を滅ぼす。あぁ…(涙)。